あのハロ(あの世ハロウィン)

ツチノコのお口

本編

「うえーい蒼くん!フランケンシュタイン似合ってる〜!」

「サンキュー!カナちゃんも吸血鬼似合ってる〜!カワイ〜〜血吸って〜〜!」

 

 2022年10月31日。西洋の行事のひとつ、ハロウィン。この世界と、死霊たちの住む別世界との境界線が曖昧になるため、人々は仮装をして死霊に連れていかれないようにする……。なんて話を知っている陽キャ共は日本にどれほどいるのだろうか?


 元はキリスト教の行事であったハロウィンは、行事に目のない日本人の手によって魔改造を施された。

 日本のハロウィンはこうだ。仮装、仮装、仮装。

 ついでに子供からのお菓子乞食。これは可愛いから許そう。

 一応、大元は変わっていないのだが、やはり日本人。キリスト教がほとんど浸透していない日本では、「なんとなく楽しめて盛り上がれて、仮装できるいい感じのイベント」として陽キャ共と各種企業にめっちゃくちゃにされてしまっている。


 さぁ、ここは渋谷。渋谷といえば渋ハロ。渋谷ハロウィン。この言葉に嫌悪を覚える人は少なくはないだろう。日本のハロウィン文化はここを見れば大体わかる。


 陽キャ共が仮装して、ワイワイして、その場所をめちゃくちゃにしていく様はさながら世紀末。

 そんな報道を毎年目にしているそこの陰キャ諸君ならきっとこう思っているはずだ。


『陽キャ死ね』


「蒼ぉ、カナぁ、お前らイチャつくな〜!俺の仮装もみーろーよー?」

「わりぃ海吏!お前のミイラめちゃ凝っててすげえわ!」

「あざ〜〜〜」

「ねえー?あと来てないのって1人だけだよねえ〜?」

「あーとーはー……うげっ、カイト遅くね?」

「は〜?あいつ遅すぎ〜!だからオタク嫌いなんよ〜」

「まぁまぁ〜!オタクの仮装見たくね?絶対アニメキャラだしwww」

「それな〜〜〜、ほんまオタクきもいわ〜〜」


 うっせえ死ね!!!!!!!!!!!!!!

 クソが!正気じゃねえよ!オタクのコスプレが、陰キャのコスプレがみたくて俺の事呼んだのは分かってんだよ!


 ていうか、オタクのテリトリーは家!外に出てもアキバしか行かないし!!!それにこんな人溜まりの中動いたこともないし、仮装もといコスプレにも謎にこだわったから余計動きづらい!

 なんとか到着して、話しかけようとしたらこんな話聞かされるし!!!おかしいだろ!!!!!


 ああああああああああああ!陽キャ死ねえええええええ!!!!!!

 

 トントン、怒りの最中にいた中、肩を叩かれた。

「うっさいなあ!あっちい……ってくださ……」

 まずい!陰キャが人に強気な態度を取るすなわち自殺!

 まずはゆっくりと振り返って…………そんで適当に謝って相手をおだてときゃ何とかなるはず……。


「あの、すいません、えと、僕……」

『あーし……カワイイ……?』


 振り返った先に立っていたのは、赤いワンピースを着た女性だった。黒髪のロングを垂らし、口には大きなマスクを付けている。


「え?えと、あの、きっっきき、キレイっです……仮装上手いですね……ほっ、本物かと思っちゃいました……本物の口裂け……」


 まずい、落ち着け俺。急に変な質問されたからとはいえ、女性相手にここまで挙動不審なら通報されかねない。


 はい、息吸ってー。すーーーーーー、はあああああ。

『ほんとに……?じゃあ、これでも?』

「はい!綺麗で…………」


 マイクを履いだその口元は、耳元まで綺麗に裂けていた。

「…………メイク、上手いですね。でも、そんなわけないですよね!!!!」


 さぁ、走れ逃げろ!!!これマズイやつだ!!!

 一瞬、メイクかと思った。いや、でも!あの口動いたんだ!しっかり動いたんだ!ほんとに裂けてる絶対裂けてる!

 それに……


「なんか!みんな!仮装のクオリティ高いぞ!!!!」

 なにこれなにこれなにこれ!

 辺りに広がってた陽キャ共の仮装ってこんなに上手かったっけ!?と言うより……

「本物!?!?!?」


 あぁ、そうだった。ハロウィンは、この世とあの世の境界線が曖昧になる日……。

 どうやら、あの世に迷い込んでしまったようです……。


 なんだっけ!?口裂け女を退治する呪文。ポエム、じゃなくて、なんか、ポルート……みたいな感じの。

 回数は?3回?5回!?口裂け女に興味持つのせめて小3まででしょ!?知らないよ!?


 なんてオタク特有の脳内語りをしながら、とにかく走り回っている。あのあと、口裂け女意外にも色んな化け物を怒らせてしまったようだ。

 フランケンシュタイン、塗り壁、ドラキュラに死霊!

「だあああああもう!」


「「自分が何したって言うんだ!!!」」


 汗で汚れたメガネを外しながらそう叫んだとき、どこかから全く同じ声が重なった。

 ただ、もっと驚いたことがある。


 びゅーーーと表すべきか、どぼーーーーんと表すべきか、どごーーーーんと表すべきか。

 とにかく、突風が辺りを巻き込んだのだ。


「えーーっと」

 今こそ、このセリフを言うべきなんじゃないのか?

「俺、なんかやっちゃいました?」

「ぶふっ」

 どこからか笑い声が聞こえた。

「だ!だれですか!?化け物ですか!?」

「ち、違いますー!カイトくーん!!!」


 その声は、上の方から少しずつ近づいてきて、そして……

「ぐべしっっっ」地面に落ちた。

「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」

「落ち着いて!!!」

「ぎゃああああああああああ!死体が喋ったあああああ!!!」

「落ち着いてって!」


 着物を着たショートヘアの人の体は、少しずつ修復されていった。グロいなんて言葉では表せないほどえぐいその光景に、俺は普通に気絶した。


††††††††††††


「わっ私、一応、カイトくんと同じクラスの三田 薫みた かおりです。知ってる……よね?」

「はい、もちろん」

 うそ、クラスメイトの名前は陽キャ以外ほとんど覚えてないとか言ったら怒られるぞ。


「てっ、ていうか薫さんって、ハ、ハロウィンとか来るの?なんか、その、地味なのにっていうか、なんというか……」

 どストレートに陰キャと言うべきか迷った。それでも、言葉を選んだ末の『地味』は流石に良くなかったと、喋った直後に後悔する。一瞬だけ、薫さんが悲しみを顔に表したのを見逃さなかったからだ。


 それなのに、薫さんは直ぐに笑顔でこう続けた。

「ズッ友組に誘われたの。ほら、あの陽キャ共の」

「あっ」俺と一緒だ。


「私、地味でしょ?あいつら、毎年陰キャを1人ハロウィンに呼んで、衣装とかこきおろすのが好きらしいの。それで、今年は私の番だったってこと」

 俺と……一緒だ。


「で、怖くなって、ドタキャンしちゃおうかなとか、ふざけたこと考えながら歩いてたら、ミイラに羽交い締めにされちゃって……」

 一緒だ!!!


「それで、首締められて殺されちゃって」

「一緒だ!!!!!!」


 …………えまって、それは一緒じゃない。


「カイトくんも死んじゃったの!?」

「いや、えとそれは違くて……今までの流れがほとんど一緒だったから……」

 恥ずかしくなって、薫さんの髪の毛に注いでいた視線を地面に落とす。


「というか!薫さん死んだの!?」再び視線を髪に戻す。

「えと……うん。私、日本人形の仮装してるでしょ?」

 そうだったんだ、ただ着物着てるだけだと思ってましたごめんなさい。

「日本人形って、捨てられても壊されても追いかけてくるイメージ無い?ほら、ホラーゲームとかでよくあるでしょ?だから、死んでも生き返る……のかもしれない」

「なる……ほど……」


 だから高所から落ちても生きてるのか。

 って、納得できるか!!!!!

 

「ていうかカイトくん!」


 薫さんが強引に変えた話は、あまりにも予想外だった。

「それ『最強魔法が認知されていないんだが?』のヴォーリン様のコスだよね!?歴代最強の風の魔術師!」

「知ってるの!?!?」


 まさか、『まほだが』の同士だったなんて!!!

 『まほだが』は確かにマイナーアニメだが作画の良さや設定の練り具合が尋常でなく、更にそこにテンプレ展開を派生させた内容を置くことで王道かつ斬新なストーリーを構成させていて……

 と、妄想はここで止めて置かなければ……


「そう!『まほだが』のヴォーリン様!これなら髪色も黒だし、割と楽に再現できるかなって」

「楽!?ぜ、絶対衣装にお金と時間かかってるでしょ!?流れが一緒ってことは……カイトくんも陽キャに呼び出されたんでしょ……。それだけのためにそこまでの力を入れられるなんて、まほだがファンとして、強く尊敬します!」

 薫さんは、軽い敬礼をしてから少し笑みをこぼす。そして、「あ!」となにかに気づいたように声を出してからこう続けた。


「ヴォーリン様って、常に風をまとってるでしょ?さっきの突風って、その能力なんじゃない?」

「あ!」


 気づかなかった!!!そうだ、薫さんが日本人形の仮装をしているから死なない。そうなると、俺もヴォーリン様の能力を操れる、ということになるじゃないか。


 こんなことにも気づかなかったなんて……『まほだが』ファン失格だ!


「あれ?だったら、なんで普段は風を纏ってないんだろう?ヴォーリン様は風を纏ってるはずなのに……」

「カイトくん、ほんとに『まほだが』見てる?」

 そう言いながら、薫さんはスマホを取り出した。


 あ、ここ圏外じゃないんだ、なんて考えていると急に画面を突きつけてきた。でかでかとヴォーリン様の立ち絵が映されている。


「そんなにコスプレ上手いんだから、コンタクト付けなきゃ勿体ないよ」

「あ!!!」


 そうだ!眼鏡だ!

 ヴォーリン様は裸眼だ!だから俺がメガネを外したとき、ようやっとコスプレとしてこの世界に認定されたんだ!

 逆にメガネをつけている今、俺はただの人間で、能力は使えない!


「薫さん、貴方はなかなか考察力がありますねぇ。貴方も『まほだが』ファンとして尊敬しますよ!」

 俺も、先程の薫さんに習って敬礼をする。


 ふふっ、と薫さんは笑みをこぼした後、

「じゃあ、実践だね」

「実践?」

「化け物、来てるみたいだよ」

 薫さんは俺の後ろを指さした。


 突風で飛ばされた化け物がワラワラと群がってここに戻ってきた。

「了解!薫さん慣れてるね!ほんとに初めて!?」

「多分アニメの見すぎで慣れてるだけ!」

 自慢げにそう言う薫さんの横で俺は、風を弱めることに全神経を注ぎながらメガネを外した。


 たしかヴォーリン様は拳を突き出すのと同時に風を強くすることで、打撃の威力を上げてたはず……


「でりゃっ!」

 あ、ダメだタイミングが難しすぎる。


「ねえ!薫さん!そっちは今どんな感じ!?」

「こんな感じ〜〜〜」

 そこには着物で化け物から逃げ回る薫さんの姿が……。


 そうだった、俺たち運動神経皆無の陰キャなんだった。


『ウヴァアア……オタク……ウザッ……』

 ん?このミイラ、陽キャみたいなことを言ってやがる……。


『カイト……オソッ』

 ん?このフランケンシュタイン、忌むべき陽キャの中心人物、蒼みたいなこと言ってるな……

 ですませるかぁぁぁ!!!カイトって言ってるし!


 あぁ、後ろからミイラに吸血鬼も出てきた……。この世界に来る前に見た、陽キャ共の仮装と全く同じラインナップ……。


「ねぇ、薫さん。もしかしなくてもだけど、今相手してる化け物って……」

「うん、ズッ友組の奴らの仮装と一緒……」

 なんてこった。


「あははははははははは!」

「あははははははははは!」

『ウヴォアッ!!』『グバァッ』『ウザッ』


 あー、なんて楽しいんだ!まるで陽キャをコテンパンにしてる気分だ!!!

「だよね!薫さん!」

「うん!そう思わないとやってられない節はあるけどね!」


 相手が陽キャ共の具現化?らしき存在だと気づいた瞬間、俺たちはとにかく日頃の恨みをぶつけるように殴りまくった。


「どりゃあっ!」

 風と一緒に拳を入れる、通称『ウィンドボム』の成功率も慣れと一緒に上がっているし、もう最高だ!本当にあのヴォーリン様になったみたいだ!


「うおらあああっ」対する薫さんはとにかく死にまくることができるのを利用して、捨て身のタックルをカマしまくっている……。

 日本人形の優雅で独特な雰囲気は皆無だ。


「ねぇ、カイトくん!」

「うわぁぁぁ死んでる状態で話しかけてくるのやめてえええ!」

「なんか……この化け物たち弱くなってきてない?」


 薫さんは目から赤黒い血の涙を流しながらそう話しかけてきた。グロ絵は見るけど、実物を見るのとはだいぶ違うというか心の準備が出来ていないというかおろろろろ。


 それはそうと、実際薫さんの言う通り、この陽キャ共は殴れば殴るほどに弱くなっていく。

 でも、こいつら現実じゃないんだもんな。

「あーあ……陽キャ共もこんな簡単に殴れないかなぁ……」

 そうボヤいた瞬間、急に地面が大きく揺れ動きだした。


「うわっ!薫さん大丈夫!?」

「カイトくん!」

「どうしたの!?何かあった!?」

「私たち、どうしてこの世界に来たんだと思う!?」

「ねぇそれ今じゃないでしょ!心配させないで!!!」

 謎の地震と化け物で混乱してる頭に、そんなこと考える余裕はない!


「あるとすれば、俺と薫さんが陰キャで連れていきやすかった……とか?」

「ここ、私の妄想に似てるの……」

 あ、無視された。


「学校という環境で、怖くて怖くてたまらない陽キャ共に勇気をだして殴る妄想……」

「それ、ほんとに似てる!?」

 化け物はどんどん弱くなっていく。おかげで、薫さんと話しながらでも片手間で相手ができる。


「気がするってだけ!

 それで続き!そのあと何回か殴ってるうちに、陽キャのことがだんだんと怖くなくなってきて……そしたら陽キャ共も、少しづつ弱くなっていって、それで最後は陽キャが全く怖くなくなるの。そうなったら、学校ごと消えてしまう」


 確かに……少しだけ似ている……。さっきの地震は、俺たちの陽キャに対する恐怖心が薄れて、この世界が消えようとしている……そう考えることもできるし……。


「というか薫さん、よくそんな妄想出来るね……小説とか書いてるの?」

「いや、そんなのじゃないの!休憩中、周りの視線が怖くなってきたとき、こういう妄想をすると心が落ち着くような気がして……」


『ヴォアア』

 目の前の化け物を見る。確かに、こいつら化け物と出会ったときには凄い恐怖を感じたけれど……こいつらに勝てるかもしれない今、自分の心に大きな安らぎが生まれているのは分かった。


 でも……


「ねえ!俺どう頑張っても陽キャに対する恐怖心消すとかできないと思うんだけど……」

「…………私も」

 ここから出るには、薫さん曰く「陽キャ共に対する恐怖心をゼロにしなくてはいけない」のだ。

 うーーーーむ……。そもそも、陰キャは陽キャから逃げるように生きるから陰キャなのであって……。

 

 逃げる…………。逃げる!?逃げる!!!


「薫さん!!!スマホ出して!!!」

「今!?!?」

「電波繋がるんでしょ!だったら1つ、いいアイデアがある!」

 少し迷う素振りを見せながらも、薫さんはスマホを取り出した。


「えー、それでは作戦を伝えます!!!」

 片手間に化け物をビンタしながら声を張り上げる。

「薫さんのスマホからズッ友組のミミさんに電話をかけてください!」

「え!?!?!?」

 薫さんは、思わず攻撃の手を緩めて、そして殺された。


「こほん、えー、そしたら薫さんは、ミミさんに絶縁を宣言してください!それか、渋ハロのドタキャンを」

「は!?!?!?」

「えー、私も、忌々しき蒼に絶縁の電話をいれます!」

「ちょっと待って!!!」

 薫さんが今までで一番大きな声を出した。


「こ……ここっ……心の準備……」

「大丈夫……。俺も必要だから……」


 はい、すーーーーーーー。はあああああああああ。


「ていうか!なんでそうなるの!?」

 冷静になったのか、薫さんは俺の胸ぐらを掴みながら問い詰める。


「えーっと……陽キャ共に、一言ぶつけることができたら……恐怖、克服できるんじゃないかと思ったんだ」

 何も変わらなくても……むしろ恐怖が増幅したとしても、少なくとも、大きな一歩にはなってくれる。それだけは確実だった。


 それに……今しかないと思ったんだ。今を逃したら、一生陽キャ共の奴隷だ。…………このまま外に出られないかもしれないけれど。


「まぁ!とにかくやってみなきゃ始まらないし!」

「やってみた結果、人生が終わるかもなんだけど……」

 そう言いながらも、薫さんは指で小さく丸を作った。


「いい!?せーので、着信ボタン押すよ」

 はぁっと、2人のため息もとい深呼吸が揃う。

「せーーーのっ!!!」


 電話が繋がると、全ての化け物は姿を消した。


「もっ、もしもし蒼?」


『あ?カイト?お前今どこだよ!来るの遅いんだよバカ!来たら1発芸しろよぉ!』


「それなんだけどさ、ごめん。俺……ドタキャンする!」


『は!?!?』


「というかあんたらと今後一緒に遊んだりすることもしない。つまり、その……ぜっ、絶縁したい!!!」


『はああああああ!?そんなことしていいのかお前おい!?お前!断ったらどうなるか分かってて言ってんだよな!?』


「わかってるから言ってんだよ!!!自分たちが社会の中心だと思いやがって……しかも実際社会の中心になりやがって!!!」


『ほい、今スピーカーにした、お前らもなんか言ってやれよ』


『おい!このクズオタク!ドタキャンするってどういう事だ!?』


『ねぇ〜蒼く〜ん?こいつやっちゃお〜?』


『ってなわけだ。お前覚悟しとけよ』


「いや!俺はもう!お前らなんかに屈しない!おっ、お前らとは金輪際会話をしない!!!お前らなんか……というか!」






「「陽キャ死ねえええええええ!!!!!」」







 薫さんと被ったその声が響いた瞬間、とんでもない揺れがこの世を襲った。


 それに少しだけ安堵しつつ、通話終了ボタンを押した。お互いの通話が終わったことを確認してから、2人で顔を見合せて笑った。

「あーあ、明日から怖くて学校行けないわー!」

「いや、これは自己防衛。陽キャが怖いわけじゃない!」

「だな!陽キャが怖いわけじゃない!」


 これは、言い訳じゃなかった。本心から、陽キャに対する恐怖心は消えていた。

 ただの、迷惑で意地っ張りで社会の中心なだけの存在。だから、怖がる必要なんてないんだ。


「あ、住所教えてよ!学校行かない間、そっちで勉強とかしたいし」

「良いよ!えっとねー……」


 会話は信じられないほど弾んだ。そして、気づいた頃には渋谷の中、人の喧騒の中にいた。


 ♢♢♢


「薫、原稿どう?」

「もうそろそろ書き終わるー。そんときは推敲お願いね」

「了解!」


 2023年10月31日、平日、夕方。

 高校生ならそろそろ家に着いてるか着いていないか、そんな時間。

 でも、俺たちは今日も、ずっと家で篭っていた。


「そんなことよりカイトー、私にはちょくちょく進捗聞いてくるくせに、自分の進捗は一切話さないよねぇ?コスプレ衣装、新しいデザインは出来てるの?」

「で、デザインは出来てるよっ!?」

「ふーーーん、作らなきゃ意味が無いんだけどな〜〜」

 薫は目線で圧をかけてくる。

「はい……直ちに制作に取り掛かります……」

「頼んだよ〜、この私が着るんだから可愛く作ってよね」


 軽く敬礼をしながら、スマホでネットニュースを開く。

「あぁ、今日ハロウィンか」

「え!?もう1年経ったの!?早いねぇ……」


 ネットニュースを読み進める。今年はなんと、渋谷区がハロウィンで渋谷に来るなという要請をだしたとの事。


「まぁ、当たり前だよな」

「え?なんの話?」

「渋谷が、ハロウィンのためにここ来んな!って言ってるって話」

「あぁ、まぁでしょうね」

「だろ?」


「ねぇカイト、今思ってること一緒に言お?」

「なるほど、理解。おけ。じゃ、せーのっ」




「「陽キャ死ね」」

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あのハロ(あの世ハロウィン) ツチノコのお口 @tsutinokodayo

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