第5話

「あーもうまじで俺限界。でもちゃんと約束は守るからさ、10数える間にさっさと逃げろよ?すぐ捕まえてやるからな。はい、いーち」



私が体を動かせずにいるのを知ってこう言う御影くんは本当に悪魔。本当に身の危険が迫ってる。クラクラする頭を抱えて私は力を振り絞った。



「にーい」


「だい…き…ら、い…!」


「さーん」



御影くんに聞こえたかは分からない声でそう言って、私は教室から駆け出した。熱に浮かされたように怠い体を廊下の冷たい空気が包み込む。



「はぁ…はぁ….」



カバンは教室に置いてきたけどもういい。家に帰ろう。そう思って角を曲がった時、体に強い衝撃が走った。



「わーお、ビックリー!」



平衡感覚が分からなくなって前に倒れこんだ私を、誰かが抱きしめた。



「あれ?もしかして羽咲ちゃん?体すっげぇ熱くね?汗かいてるじゃーん」



私を抱きしめる男の子が首筋を舐めてきた。突然のことに拒否することもできず、反射的に体が反応する。



「ひっ、…んやぁ!」


「え?なに?声えっろいじゃん。羽咲さんって敏感な…」


「龍矢」



朦朧とする意識の中で恐れていた声が近づいてくるのがわかった。



「あ、慧斗ー!探してたんだよお前のこと!」


「お前ここでそいつと何してる」


「ん?あーさっきその角でドーンッてなってさー!」


「ふーん。じゃあ、そいつこっちに寄こせ」


「え?なに羽咲ちゃんに用事?でもなんか羽咲ちゃん体調…え!?慧斗まさか!?」


「あ?…あぁ、そのまさかだよ。龍矢のおかげで楽しめそうだぜ」



微かに聞こえる会話。今すぐにでも逃げたいのに、龍矢って人に抱きしめられていて不可能で。それに、体が熱くてたまらない。



「うわーまじか!どうりで羽咲ちゃんえっろい顔してると思ったわー!」


「お前は見んなよ。連れて帰るから手離せ」


「はいはい」



更にこちらに近づいてくる足音がする。



怖い。嫌だ。捕まりたくない。教室での御影くんを思い出して、私を抱きしめる彼に縋り付く。



「ぃや、た…すけ、…てっ…」



手を離そうとした彼の制服を強く掴んで見上げる。

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