第7話

愁くんに言わずに隠していたつもりだった私の気持ちは、もうとっくに気づかれていた。



「そ、そんなことない…」



でも、恥ずかしくてそんな簡単に頷けない。



繋いでいた手を振りほどいて、立ち止まっていた愁くんを置いて校舎に足を進めようとした。



「いっ…!?」



だけどすぐに手首を強い力で掴まれて、後ろへと引き戻される。



「小春」



無表情の愁くんが私の顎を上向かせて、咎めるように名前を呼んだ。周りに生徒はもう居なくて、静まり返ったこの場所に予鈴が鳴り響く。



もう朝のHRは始まっている時間なのに、愁くんは焦りさえ見せずにゆっくりと口を開いた。



「だれが勝手に手を離していいなんて言った?」



いつもより数段低い声に肩が震える。



「もう二度とするな」



凄むように怒られて私は何度も頷いた。



「ごめんなさいっ…」



愁くんを見上げながらそう言えば、口角が少しだけ上がって私の頭を撫でてくれた。



その優しい手つきに、愁くんが私に愛想をつかしていないことが分かって安心する。



そして手を繋ぎ直した愁くんは、何故か校舎とは反対方向にある門へ向かって歩き出した。

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