第6話

「どうしたんだ」


「…え?」



不意に愁くんが私の顔を覗き込んだ。



その表情はいつものクールなままだったけど、微かに口角が上がっていたように見えたのはきっと私の勘違い。



「暗い顔してる」


「あ、え…」



さっきの心のモヤモヤを思い出して口ごもる。



どう誤魔化そうか焦る私を見つめている愁くんは終始無言だけど、瞳は早く言えと急かしてるように見えた。



その眼差しに耐えられなくて、私は顔を俯けてつい言葉をこぼしてしまう。



「愁くんのこと、みんな見てるから…」


「から?」


「……」



その先を促されて困る。



自分でもわかるくらい眉尻の下がる顔を愁くんに向ければ、至近距離に顔があって一瞬だけ唇が重なった。



「え、しゅっ…くん」



驚きと恥ずかしさで目を見開く。



聞こえてくる女の子の微かな悲鳴で、周りの人達が私と愁くんを見ていることが分かるのに、そんなの気にしていないのか愁くんは妖艶に微笑んだ。



「嫉妬、したんだろ」


「!!」



嫉妬という言葉に顔が一気に熱くなった。

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