第71話

お風呂を出れば、同じタイミングで司くんが寝室から出てくるところだった。




「雪乃さん」


「楓は…」


「もう寝たよ」


「…ありがとう、」




ほら、また。




「泣いてるの?」


「…ち、ちがうの、」


「違くないね」




優しく引き寄せられて、目尻に唇が寄せられる。



困ったように微笑んで私を見下ろす司くんには、もう随分前から怖さを感じない。



私達が結婚するまでの、私が妊娠するまでの過程が幻だったかのように、とても優しい。



「ごめんなさいっ…」


「何で謝るの?」


「司くんはお仕事で疲れてるのに、私が…」


「雪乃さん、それ以上は言っちゃダメ」



顔を隠すように俯いていたのに、覗き込んできた司くんと掬い上げられるように唇が重なる。



近すぎる綺麗な瞳に恥ずかしくなってギュッと目を閉じれば、それが合図だったかのように強く抱きしめられた。

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