第70話

ギュッと心臓を捕まれたような感覚。



「ありがとう…」


「全然」



仕事で疲れてる筈なのに、家事や育児を率先してやってくれて、私のことをとても気遣ってくれる。



なるべく早くご飯を食べて楓を受け取って、司くんが作ってくれていたミルクを飲ませた。



今日から挑戦し始めた離乳食だったけど、お昼同様一口も食べてもらえないまま失敗。





「お風呂入っておいで」


「うん…、ごめんなさい…」




気落ちした私の代わりに楓とお風呂に入った司くんは、自分が出た後に入浴剤を入れてくれていた。



大好きな香りのそれは、気分転換にと司くんがストックしておいてくれるもので、とても涙腺が緩む。



「……っ」



最近の私は、与えられる優しさと自分の情けなさに、直ぐに泣いてしまう。



生まれたばかりの頃は、もう少しちゃんと育児をできていた筈なのに、楓の成長に対応するのが難しくなってきた。



そして何より、司くんの方が何でもできてしまうのが辛かった。

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