第69話

カシャンッ!という音と共に、手に持っていたスプーンがテーブルへ落ちていく。




「あーう!」


「きゃ、待って、楓…」




弾かれた拍子に飛び散った離乳食を掴もうとする小さな手を慌てて止めれば、今度は私のご飯に手を伸ばそうとする。




「あっ、ダメッ…!」




生後半年の楓は好奇心が旺盛で、いろんなものに触れようとする。




「楓はまだ、離乳食は嫌なのかもね」




そんな言葉と共に楓の手からご飯を遠ざけた司くんは、テーブルの上を拭いていく。




「ありがとう、司くん…」


「全然」




フッと口角を上げて笑った司くんは、布巾と離乳食の残りをキッチンへ持って行くと、戻ってきてすぐに楓を抱き上げた。



抱っこが大好きな楓はキャッキャと楽しそうに笑う。




「俺が抱っこしてるから、雪乃さんはゆっくりご飯食べてね」


「えっ、でも司くんもまだ…」


「雪乃さんが優先だよ」


「ぁ…」




腰を折って近づいてきた唇が額に触れ、すぐに離れていく。

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