第51話

耳元で囁かれた声は、とても低かった。



「白石さんはもう俺から離れられない」


「え…?」



私が柏木君から離れられないなんてことあるわけない。



分かっているはずなのに、自信に満ちた柏木君の笑顔が私の不安を煽る。



「白石さんを守っていけるのは俺だけです」


「まも、る…?」



柏木君の言っている言葉をうまく理解できない。


大嫌いな私を何から守るっていうの?



「さぁ、俺達の家に帰って大切な話をしましょう」


「俺達の、家?」


「そうですよ」


「か、柏木君は…なにを…言ってるの?」



道端で易々と混乱する私を抱き寄せた柏木君は、とろけてしまいそうなほど甘美に微笑んでいく。



「家に帰れば分かりますよ」



その端正な顔を異様に綺麗な満月が怪しく照らす様は、まるで本物の悪魔を見ているよう。



私のことが嫌いで、徹底的に傷つける悪魔。



そんな人の家になんて帰れるわけがないし、これ以上柏木君に傷つけられたくない。



「は、離して…」


「ん?」


「私のことが嫌いなら、もう放っておいてっ!!」



住宅街に響き渡るほど叫んだ私は、柏木君を思い切り突き飛ばした。

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