第52話

…突き飛ばした筈なのに、尻餅をついたのは私だった。



「…イタッ……っう!?」



そして、その衝撃のせいか突発的な吐き気に襲われた。

グラグラする視界に、せり上がってくるような嘔吐感。



気持ち悪い…



口元を手で覆って座り込む私に柏木君が近づいてくる。



「だから早く帰ろうって言ったのに」



まるでこうなる事が分かっていたかのような口ぶり。



目の前にしゃがみ込んだ柏木くんは、優しく私の背中をさすってくれる。



「大丈夫ですよ。すぐにおさまります」


「…っ」



その言葉通り、少しずつ消えていく嘔吐感。



涙の滲む私の目尻を拭った柏木君は、背中と膝裏に腕を通してゆっくりと私を抱き上げた。



「家に着くまで眠っていて下さいね」


「…ん」



軽く重なった唇。



言葉の意味は、もう抵抗するなという柏木君の気持ちが込められている気がした。

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