溺れる

第46話

あの日、私は柏木君のベッドの上で目を覚ました。



意識を失った後、私はまた彼の家に連れてこられてしまっていた。



そして、この部屋に囚われて二週間近く経つ。



外に出ることもできず、柏木君に抱かれては眠り、用意された食事を食べお風呂に入れてもらう、そんな毎日が繰り返されている。



今日もまた、柏木君の香りの残るベッドで目を覚ます。




静かな室内は薄暗く淀んでいるのに、カーテンの隙間から入り込む光はオレンジ色だった。



「嘘…もうこんな時間…」



慌てて起き上がった身体は、だるさから態勢を崩してベッド下に落ちてしまう。



「…痛い」



拘束されていない身体は自由の筈なのに、毎晩のように抱かれる身体は言うことを聞いてくれない。



腰に走る鈍痛が私の邪魔をする。


だけど、今日こそ自分の家に帰ると決めていた。



柏木君にドロドロに溶かされたこの二週間。



こんな日々が、私の退社日まで続くのかと思うとすごく怖い。



現実に目を向ければ次の就職先だって見つけなくてはいけないのに、ここで柏木君の思惑通りに囚われてはいられない。



幸い昨日はあまり激しく抱かれていないから、床に散らばる衣服を身に纏い、気怠い体をひきずりながら柏木君の家を出た。

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