第40話

少しだけ体を離した柏木君が目を向けたのは私の首で、伸びてきた手がそっと噛まれた部分に触れた。



ピリッと走った痛みに反射的に肩が震える。



「…あいつの歯型がついてる」



更に顔を歪め眉を寄せた柏木君には、自分のつけた歯型が見えていないのかもしれない。



「…っ」



三島さんに噛まれた部分を強く指で擦り始めて、その痛さから私は柏木君の肩を押し返した。



それなのに、私の背中にまわったままだった左腕は離れてはくれなくて、離れようともがく私に気づいた柏木君は静かな怒りを露わにしていく。




「どうして俺の言うことを聞いてくれないんですか」


「やっ…!」


「三島は危ないって言いましたよね」


「ご、ごめ…」


「白石さんは、最後の最後まで手のかかる人だ」




私を見下ろす瞳はとても冷たくて、落ち着いた口調が逆に怖い。



容赦なく責めてくる言葉に言い返せない私は、こうやって柏木君に丸め込まれているのかもしれない。



三島さんに襲われそうになった私を確かに柏木君は助けてくれたけど、そうじゃないんだ。



柏木君は私を無理やり抱いた。

それは、三島さんがした事よりももっと酷いこと。



柏木君の腕の中で安心していちゃダメなんだ。

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