第39話

「白石さんっ!!」



激しい衝撃音と響き渡る声。



「三島てめぇっ…!!」



勢いよく三島さんに殴りかかった柏木君は、今まで見たことのないくらい怒りを露わにしている。



体の力が抜けて床に座り込んだ私が柏木君の背中越しに見たのは、頰を抑えて倒れる三島さんと、扉から入ってきた三島さんと同じ部署の部長だった。



「お前っ…!今僕を殴っ…」


「宇津木部長、こいつ連れて行ってください」


「…あぁ。すまない柏木」



低く落とされた声に反応した宇津木部長が、震えている三島さんを抱えて部屋を出て行く。



「白石さんっ…」



勢いよく振り返った柏木君は、顔を歪めながら私を抱きしめる。



その温もりに安心してしまう私はおかしいのかな…?



私の腕は自然と柏木君の背中にまわっていて、涙が頰を濡らしていた。



「ふっ…ぅ…」



柏木君にマスクを外されたことによって小さく溢れ落ちていた嗚咽が響いた。



それを掬うように一瞬だけ唇が重なり、



「遅くなってしまって、すみません…」



落とされた声はとても苦しげだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る