第35話

「白石さん」



パソコンに向き直ってすぐ私も声をかけられた。



今日は声が掠れてあまり出ないから、返事をできないまま振り返った。



「ちょっといいかな」


「…ぁ」



振り返った先で私を見下していたのは、気まずそうに微笑んでいる三島さんだった。



「風邪引いて声出ないんだよね?」



優しく尋ねてくる三島さんに無言のまま頷くと、ゆっくりと近づいてくる。



その笑顔を見て思い出されるのは昨日の柏木君の言葉。




『明日から、三島さんに話しかけられても無視して』




なんでそんな事を言ったのかは分からないけど、三島さんは部署は違っても先輩だ。



無視することなんてできないし、少し強引なところのある彼から逃れられた試しはない。



「聞きたいことがあるんだ。声は出なくても問題ないから、場所を移していいかな」



柏木君との約束と三島さんの有無を言わさない威圧感、その板挟みで胃がキリキリしてきた。



…でも、幸い今柏木君は呼び出されてるから、少し席を外しても分からないだろう。



三島さんの言葉に頷いて席を立つ。



話の内容は何だろうか…



正直、強かで強引な三島さんは苦手だ。

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