第34話

ピタリとキーボードを打つ手が止まる。



「白石さん?」


「っ、ぇ…」


「何を考えているんですか」



微かに震えていた私の手に重なった大きな手。


柏木君の唇が耳を掠める。



「逃がしませんよ」


「…っ」



小さく囁かれた言葉に目を見開く。



それは、どういう意味で言っているのだろう。



柏木君から度々囁かれる言葉は、脅しのような、束縛のようなものばかり。



ゆっくりと離れていくその姿を見つめていれば、瞳は冷たいまま口角が上がっていた。



その表情は恐ろしいはずなのに、見惚れてしまうほど私の体は動かなかった。



「そんな顔しても、ダメですよ」



まだ柏木君が優しくて、確実に惹かれていた頃のように鼓動が速くなる。



矛盾した気持ちに戸惑っているのは私自身だ。





「柏木ちょっといいかー?」


「…はい」



席を立つ柏木君にホッと息を吐く。



このモヤモヤした気持ちを落ち着かせる為にも、仕事に集中しないと…



只でさえ私は仕事が遅いから。

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