燻り

第33話

「え!?白石さん風邪!?」



翌朝、柏木君に引きずられるようにして出社した私を見た同僚が目を見開いていた。



原因は掠れた声とマスク。



「妊娠中なんだから、無理しないでね?」


「心配してくださってありがとうございます。俺が付いていますので大丈夫です」



私の肩を抱いて笑顔で話す柏木君は本当に外面が完璧で、昨日の姿が嘘のように爽やかな好青年を演じている。



本当はこの場から逃げ出したいのにそれができないのは、私の肩にまわる柏木君の腕の力が強すぎるから。



でも、それに気づいてくれる人はいない。



柏木君と会話を続ける同僚は私に微笑みながら、献身的な彼でよかったわね、と言う。



私は曖昧に笑って頷いた。



「じゃあ、行きましょうか」


「…っ」



少し冷たくなった笑顔を私に向けて、肩を引きながら椅子に座らされる。



柏木君と隣のこの席は、いつも監視されているようで居心地はあまり良くない。



あと一ヶ月はこの生活が続く。



短いようで長いけど、あと少し我慢すれば柏木君と関わることもなくなる。



あと少し…



あと少しで、柏木君と会わなくなる…

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