第32話

「泣かないでください」



静かに涙を流す私の頭を、柏木君の胸へと引き寄せられる。



冷たくしたり優しくしたり…


もう、わけがわからない。


考えるのも疲れてしまった。




「大人しく俺に身を委ねていればいい」




耳元では柏木君が優しく囁き続ける。




「白石さんは、俺のことが好きなんだから」




疲弊しきった心と体に少しずつ浸透してくる言葉。



友達も親しい知人もいない孤独の私には、柏木君の体温が心地よかった。



段々と重くなってきた瞼がゆっくりと落ちてきて、暗闇の中で柏木君の言葉が反響していく。




「今日からここが、俺と白石さんの家ですよ」




包み込まれるような温もりを感じながら、私の意識は遠のいていった。



最後に聞いた言葉はなんだったかな…



まるで洗脳のように繰り返される言葉を、私は夢うつつで何度も聞いた気がした。

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