第31話
ただ唇が軽く触れ合うだけのキス。
リップ音を立てて少しだけ顔を離した柏木君と、鼻がぶつかりそうな近さで視線が交わる。
「明日から、三島さんに話しかけられても無視して」
「…え?」
「大丈夫。俺が守ってあげるから」
「…っ!」
耳元で低く囁かれた言葉に私は目を見開き、柏木君に抱き寄せられたまま体が震えだす。
柏木君の纏う空気が変わった。
どうして三島さんのことを知っているの…?
私と三島さんのことを知っているのは高梨さんだけだと思っていたのに。
「もう二度と関わらないようにさせますから」
頰に垂れていた私の髪を耳にかけ直しながら、ゆっくりと口角を上げていく柏木君は、全てを知っているようだった。
「な…っ…」
声が出ない。
三島さんに何をしようとしているのか聞きたいのに、喉が痛くて出てくるのは掠れた吐息だけ。
「あれだけ鳴いたら、声も出なくなりますよ」
焦る私を見て馬鹿にしたようにクスクスと笑う柏木君に、顔が熱くなり視界が歪んだ。
年下の男の人にいいようにされたり馬鹿にされる自分が情けなくて、悔しくて、柏木君の肩を強く押し返すけれど、背中にまわった腕はやっぱり離れてはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます