第31話

ただ唇が軽く触れ合うだけのキス。



リップ音を立てて少しだけ顔を離した柏木君と、鼻がぶつかりそうな近さで視線が交わる。



「明日から、三島さんに話しかけられても無視して」


「…え?」


「大丈夫。俺が守ってあげるから」


「…っ!」



耳元で低く囁かれた言葉に私は目を見開き、柏木君に抱き寄せられたまま体が震えだす。



柏木君の纏う空気が変わった。



どうして三島さんのことを知っているの…?



私と三島さんのことを知っているのは高梨さんだけだと思っていたのに。



「もう二度と関わらないようにさせますから」



頰に垂れていた私の髪を耳にかけ直しながら、ゆっくりと口角を上げていく柏木君は、全てを知っているようだった。



「な…っ…」



声が出ない。


三島さんに何をしようとしているのか聞きたいのに、喉が痛くて出てくるのは掠れた吐息だけ。



「あれだけ鳴いたら、声も出なくなりますよ」



焦る私を見て馬鹿にしたようにクスクスと笑う柏木君に、顔が熱くなり視界が歪んだ。



年下の男の人にいいようにされたり馬鹿にされる自分が情けなくて、悔しくて、柏木君の肩を強く押し返すけれど、背中にまわった腕はやっぱり離れてはくれなかった。

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