第30話

月の光で白く照らされたベッドで、柏木君は体の動かない私に寄り添うように顔を覗いてくる。



激しい行為に意識が飛び、目が覚めたときにはもうこの状態になっていた。



向かい合う形で抱きしめられ、その距離の近さと触れる素肌が恥ずかしい。



「逸らさないで」



眠っていた顔をずっと見られていたと気づいて、つい視線を逸らしたことを、落ち着いた低い声で咎められた。



不思議と恐怖を感じないのは、きっと柏木君の表情がいつもより柔らかいからだろうか。



トクン、と波打つ鼓動。



「腰、大丈夫ですか?」


「…っ」



背中にまわっていた柏木君の手が、優しく私の腰を撫でる手つきに反応してしまい、羞恥で顔が熱くなっていく。



無理やり抱かれたのに。


たくさん傷つけられたのに。


柏木君が苦手なはずなのに。



私の鼓動は確実に速くなっていた。



逸らせずにいる視線は交わったままで、柏木君の黒く艶めく瞳に吸い込まれそう。



「フッ…たまんねぇ」


「…ぇ?」



小さく落とされた言葉を聞き逃した刹那、ベッドがギシリと軋んだ。



「ん…」



気づいたときには力強い腕に引き寄せられていて、唇が重なっていた。

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