第26話

自由になったはずの手は、柏木君に攫われるようにしてベッドに縫い止められた。



恋人のように絡まる指に、心臓がうるさいくらいにドキドキする。



「赤くなってる」


「か、柏木く…」


「俺が居ない間に逃げようとしたんですか?」


「え?」



俺が、居ない間…?


言葉の意味が分からない。



お昼に意識をなくして、気がついたら柏木君の家でキスをされていた。



私に逃げるタイミングなんて無かったはずなのに、柏木君の瞳は鋭くなる。



「俺が仕事へ戻っている間に、手首がこんなに赤くなるまでネクタイを外そうとしたんですね」


「ち、違っ…」



私は柏木君が仕事に戻っていたなんて知らずに、ずっと眠っていた。



手首が赤くなっているのはきっと、柏木君が強く縛っていたからで、私は何もしていない。



それなのに柏木君はそれに気づかない。



「俺から逃げようなんて無理に決まってるのに」


「あっ!…やっ…」



生温かい舌が首筋を這う。



絡められた指は強く掴まれて、手の甲に柏木君の爪が食い込んでいく。

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