第25話

また、あの色のない瞳に戻ってしまった。



偽物の笑顔を貼り付けた柏木君は、それ以上話すことを許さないというかのように、矢継ぎ早にスプーンを捻じ込んでくる。



「やっ…も、いらな…」


「あぁ、もうお腹一杯ですか」


「…きゃっ」



近づくスプーンから顔を逸らすと、カチャンッと音がして柏木君が立ち上がる。



背中と膝裏にまわされた腕に持ち上げられた浮遊感に、咄嗟に柏木君の服を掴んだ。



クシャリとシワの寄ったシャツ。



ハッとして柏木君の格好を見るとまだスーツを着ているのに、私は何故か家にあったはずのロングTシャツを着ていた



なん、で…?



気づいた時にはもう遅い。




「あっ…」



月の光だけが差し込む薄暗い部屋で、私はベッドに押し倒されていた。



初めて柏木君に抱かれてしまった部屋。



ブラウンの髪から覗く瞳が怪しい光を宿して、私を見つめて逸らさない。



「ネクタイ、外しますね」



ゆっくりと口角を上げた柏木君が、シュルシュルとキツく縛ってあったネクタイを解いていく。



「…ぃ」



擦れた部分に少しだけ痛みを感じた。



そんな私を見つめていた柏木君は、笑みを深めながら解いたネクタイをベッド下に落とす。

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