第24話

チュッと小さく音を立てて柏木君の唇が離れていく。



「はぁ、はぁ…」



もう抵抗なんてできなかった。



力の入らない体が柏木君にもたれ掛かるように倒れていき、その香りに包まれるのを感じた。



「そろそろ、ご飯を食べましょうか」



私の腰を片手で抱いたまま前かがみになった柏木君は、ソファの前に置かれているテーブルに手を伸ばす。



ラップをめくる音と食器のぶつかる音。



呼吸の整わない私の唇に柏木君がスプーンを当てた。



「さぁ、食べて下さい。オムライスです」


「…っあ」



微かに唇を開けると、口の中に仄かに温かいスプーンが入ってきた。



…美味しい。



脱力したままゆっくりと口を動かして飲み込むと、柏木君は優しく私の頭を撫でた。



「美味しいですか?」



掛けられたその言葉に私は無意識に頷いていた。



「そうですか。嬉しいです」



優しい微笑みに、柔らかくなった声色。



今ならこの手首のネクタイを外してほしいと言える気がした。



「あの、自分で…食べれる…から、手、」


「口開けて」


「んっ」



ニコリと笑ったまま、柏木君は話している途中だった私の口の中にスプーンをねじ込んだ。

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