惑わしの檻

第21話

「…っ、ん」



息が苦しい。


右肩が熱くなるほど何かに掴まれている。



ハァ…と無意識のうちにこぼれ落ちた吐息と手首の締め付けが、私の意識を覚醒させていく。



重い瞼を上げると霞んだ視界が徐々に鮮明になっていき、すぐ目の前にある顔に息が止まった。



ゆるりと弓なりになった瞳が真っ直ぐに私を捉える。



「ただいま」



濡れた唇が弧を描きながら近づいてきて、小さなリップ音を響かせた。



「か、しわ…ぎ、くん…」



テレビも何もついていない静かなリビングで、黒いソファに座る柏木君。



その上に横抱きにされている私の右肩は引き寄せられるように掴まれていて、両手はネクタイでキツく縛られていた。



「白石さん?”ただいま”って言われたら”おかえり”ですよ」



状況をうまく呑み込めない。



戸惑う私に気づいているはずなのに、柏木君は素知らぬ顔で私の頰を撫でている。



「白石さん、言って」


「え…」



色のない瞳。


柏木君がその言葉を強制する意味が私にはわからない。

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