第12話

さっきまでは誤解をいつどうやって解こうかと考えていたけれど、このまま流されるように辞めて、転職して新しい環境にいくのも良いかもしれない。



会社の人を騙すようで申し訳ないけれど、私の心はそっちの方向へ傾いていた。



「着きましたよ」



掛けられた声に俯いていた顔を上げて外を見ると、すぐ目の前に私の住んでいるアパートがあった。



「…なん、で」



驚いて柏木君を見ると、何食わぬ顔でシートベルトを外して車から降りていく。



「え、まっ、待って」



私も慌てて車を降りると、ドアの前に待機していた柏木君が私を部屋の前まで引っ張った。



なんの迷いもなく連れてこられた私の家を、なぜ柏木君が知っているのかは怖くて聞けない。



「鍵開けてください」



平然と言う柏木君に私は首を横に振った。


私なりの精一杯の抵抗だった。



だけど、そんなのは柏木君に通用するわけがなくて、私を見下ろす瞳が冷たいものに変わる。



「今はお昼休憩中です。時間がない事くらい分かりますよね?抵抗したって無駄なんで、黙って鍵出してください」


「…っ」



腰を引き寄せられ耳元で囁かれた声は低く、恐怖を感じるには充分で、何度も頷いてからやっと解放してくれた柏木君から逃げるように部屋の鍵を開けた。



カチャリとドアノブを回して中に入ると、背中を押されてすぐに柏木君も中に入った。

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