第11話
柏木君はいつも私の涙を拭う。
私のことが嫌いなのに、優しく触れてくれるから勘違いしてしまいそうになる。
隣では既に仕事に集中している柏木君がいるのに、私はほとんど上の空状態で、気付いた時にはもうお昼の時間になっていた。
「行きましょうか」
当たり前のように私の手を取って席を立つ柏木君に引っ張られるようにして地下駐車場に連れて行かれる。
抗うことを許さない彼の強い力で助手席に乗せられて強くドアを閉められた。
走り出した車内で続く沈黙。
行き先も教えてくれないまま運転をする柏木君は一度も私の方を見てくれないし、話しかけてくることもない。
居心地の悪いこの空間から逃げるように視線を窓に向ければ、見慣れた景色が流れていき思わず眉を寄せた。
再度視線を柏木君に向けてもチラリともこちらを見てくれない。
「あ、あの」
「なんですか」
「どこに向かってるの…?」
「行けばわかります」
返ってくる言葉は端的で会話を続ける気がない。
勇気を出して話しかけたのに冷たくあしらわれて、年下なのにその威圧感がやっぱり怖かった。
そっか、としか言い返せない自分に深く落ち込む。
柏木君との関係も会社での事も全て、自分が招いたことなのかもしれない。いっそ、本当にこのまま会社を辞めてしまおうか。
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