第80話

目の奥が熱くなる。


頬を撫でていた指先が目尻を拭った。



「また泣く?そんなに見つめても俺を煽るだけだよ」


「煽ら、な…ぃ」


「はっ、可愛い」


「お願い…」



早く、お風呂から出たい。



ベッドの上から続く熱に浮かされたような感覚に、そろそろ意識が飛びそうだ。



熱い吐息がこぼれ、瞼が落ちていく。



くたりと優くんの肩へ寄りかかると、私を抱え直すように腕が動いた。




「そうだね。これ以上は、綾ちゃんがのぼせちゃうから。そろそろ出ようか」




真っ暗な視界の中でそう聞こえたところから私の意識は朧気で、柔らかいタオルが肌や髪を優しく拭いていくのを感じていれば、いつの間にかバスローブ姿でソファーへ横になっていた。




ガラス張りの窓から覗く空はすっかり朝日が昇っていて、それをボーっと見ていたら、ソファー下に座った優くんがペットボトルのキャップを開けた。




「綾ちゃん念願のご褒美だよ」




ご褒美と言ったそれを笑顔で自分の舌に乗せた優くんは、水を含むとすぐに私と唇を重ね合わせた。

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