第51話

「き、のう、だけだよ…。残業終わりに送ってくれたの…」



たまにある優くんの雰囲気が変わる瞬間に慣れなくて、言葉に詰まってしまう。



電話では分からなかったけど、声が低くなっただけで顔は笑ってる。だから、冷たく感じるのはきっと私の勘違いだ。



男の人だから、会話中に低い声に変わることなんてよくあるよね…?




「同期の’永瀬くん’だっけ」


「…え?」



私、名前言った…かな…?



「繁華街で一緒にいたスーツの男だよね」


「う、うん」


「男と出歩いたらダメだよ」


「え、ど、どうして…?」



ゆったりとした口調で話す優くんは艶やかな笑みを浮かべ、手を近づけてくる。



「手、出して」



言われるがまま。



膝上で握り締めていた手を差し出せば、手首をとられた。そこからなぞるように指先へと辿りついた優くんと私の小指が絡み合う。




「約束だよ」




囁くように告げられた言葉。



更に深まった笑みに、何故だか背筋がゾクリとした。

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