第49話

体が強張って硬直している私を見て、優くんの口角は上がっていく。その妖艶さに、本当に年下なのかと疑いたくなる。




「今日の綾ちゃん、凄く可愛いね」




真っ直ぐに見つめられたまま、ストレートに可愛いなんて言われたのは初めてだった。お世辞だとしても、私の頬は簡単に熱を帯びていく。



恥ずかしさと嬉しさが混ざり合って、私の口からは小さな’ありがとう’という言葉しか出せなかった。



優くんは本当に女性慣れしているなと、改めて実感させられる。




「あ、の…」


「ん?なに?」




重なっていた手が繋がれて指が絡み合っていく。



そのゆっくりした動作に手を引きそうになるけど、僅かに力の加わった優くんの手に押さえられた。




「捕まえた」




視線を手元から優くんへ向ければ、僅かに口角を上げたまま私を見つめていた。その視線に、目元までも熱くなっていく。




店内には他のお客さんも入って来ているのに、まるで別空間へいざなわれてしまったみたいに、優くんの声以外、なにも聞こえない。




そして、低く落とされた言葉の意味を、私は理解できないでいた。

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