第38話

「な、永瀬くん…」


「ん?終わった?」




入力を終えたファイルを持って永瀬くんの席へ行くと、パソコンの電源を落としているところだった。



「あの、ごめんね…」


「え?なんで春田が謝るの?」


「私のこと送るって約束したから、飲みに行けなかったんだよね、ごめん…」


「あ、あー…ははっ」



ファイルを渡して謝るとなぜか笑い出す。



びっくりして見つめれば、永瀬くんは鞄を持って立ち上がった。



「これ、ありがと」


「あ、うん…」


「春田が謝ることねぇよ。俺、あの人と飲みに行くつもりないし、気づかない?」


「え?」



永瀬くんが指差すのは電源の落ちたパソコン。



気づかないって、なにを…?



聞かれていることが分からなくて首を傾げれば、また笑われてしまう。




「本当、鈍感だな。俺さっきあの人に仕事残ってるって言ったけど嘘だし」


「あっ!ほんとだ…」


「タイミングよく春田も終わらせてくれたことだし帰るぞ。早く鞄持ってこい」


「う、うん!」



意地悪く笑った永瀬くんに急かされ、私も帰宅の準備をしに自分の席へ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る