第37話

金曜日の今日は残業する人は疎ら。



19時を過ぎた頃には私以外で唯一残っていた女性の藤川さんが席を立ち、帰る準備を始めていた。



そしてバッグを手にして彼女が向かったのは扉ではなく、私から少し離れた席に座る永瀬くんの方。




「お疲れ様、永瀬くん」


「お疲れ様です」


「仕事片付きそう?」


「あと少しってとこですかね」


「なら終わったら飲みに行かない?」




前に後輩の女の子が言っていた”藤川さんは永瀬くんを狙っている”という状況を、初めて目の当たりにした。



ゆみちゃんが言ってたこと本当だったんだ…!



私たちよりも先輩である藤川さんは大人の色気ただよう綺麗な女性で、男性とも気兼ねなく話せるあの余裕さが羨ましい。




「あー、今日は無理っすね」


「…そう」


「また今度飲み会開きましょう」




パソコン越しにチラッと覗いていればそんな会話が聞こえた。



今日は私を家まで送るって言っちゃったから断ったのかも知れない。



なんだか申し訳なくて送迎を断ろうとしたけど、それより早く藤川さんは出て行ってしまった。

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