侵食と懐柔

第35話

「春田、悪いこれ頼める?」




外回りから戻った永瀬くんは、申し訳なさそうにファイルを机に置いた。もうすぐで定時上がりになるこのタイミングだから罪悪感があるんだと思う。




「大丈夫だよ」


「でも、残業続いてるよな…」


「たった3日だよ?永瀬くんに比べたら全然残業してないのに」




仕事だから仕方のない事だし、営業の人なんてほぼ毎日残業みたいなものなのに、それを気にかけてくれる永瀬くんは優しい人だ。




「今日車だから、帰り送ってく」


「そんな、本当に気にしなくていいのに…」


「ダメ。俺が気にするから」




そう言って念押しして自分のデスクへ戻ってしまい、なんだか申し訳なくなる。



よし!頑張って早めに終わらせるぞ!と意気込んで渡されたファイルを開く。



定時である17時を過ぎると徐々に退社する人が増え、窓から見える景色も変わっていく。それ自体には慣れたけど、3日連続残業が続くのは正直初めてだ。




優くんに本を貸してから3日、Lampには行けていない。



もう本は読み終わっただろうか。

カフェに行っているのだろうか。



気づけばそんなことばかりを考えてしまう。

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