第30話

「こ、高校生が夜の繁華街にいるなんて、あ、危ないよ…」



眉を寄せてそう言えば、目の前の瞳が見開かれた。



だけどすぐにその瞳は閉じられ、喉の奥で笑いを噛み殺すように顔を歪めた。



「笑うとこじゃないのに」



大人の立場から言ったのに予想外の反応をされ、自分でも眉が下がっていくのを感じた。



「ごめん、心配してくれてありがと。でも、大丈夫だよ。綾ちゃんが心配することは何もないから」


「う、うん…」


「あー、でも俺の見間違いだったのかなぁ?」


「え?」


「繁華街で綾ちゃんを見かけた日さ、俺たちが道端でぶつかった次の日だったから。あれ、昨日のお姉さんに似てるなって思って見てたんだけど。隣にさ、スーツ着た男、居たよね」




ねぇ、俺の見間違いだった?ともう一度聞いてくる優くんに、私は慌てて首を横に振った。



「あー、やっぱりそうだったんだ」


「うん。私が初めて夜の繁華街に行った日なの」


「隣にいた男はだぁれ?」


「えっと、会社の同僚だよ」


「へぇ。そうなんだ」



そう言って優くんがコーヒーを啜るので、私もレモンティーを飲んだ。



そしてなんとなく見た時計は、もういい時間を指していた。

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