第17話

少し小声になった会話だけど、この静かな店内では微かに聞こえてしまう。




「この時間には来るなって言ってただろ」


「ちょ、そんな怖い顔しないでくださいよ」


「すみません奥山さん。ちょっとワケありで」




盗み聞きはよくないと分かっているのに神経がそちらに集中してしまうので、本を開きその世界に入り込もうとしたら、




「甘っ」




視界の隅にあったアイスコーヒーが消え、低い声が頭上から落とされた。



その近さにビクッと体が震えて勢いよく顔を上げ、私は瞬きを繰り返す。




「あ、え…?」




目の前には制服姿の男の子。

緩く着崩されたそれに、艶やかな黒髪。



手に持っていたアイスコーヒーをテーブルへ戻したその人は、ゆっくりと口角を上げた。




「また会えたね、お姉さん」




男の人だと思っていたその人は男の子だった。

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