第12話

視線の先を辿ると、あるお店の前に黒塗りの車が一台停まっていた。



なんだろう…?



チラリと視線を向けて足早に去る人、視線を釘づけにされたように立ち止まる人。





「春田」



振り返りキョロキョロしていたら、永瀬くんとの距離ができていたのか、少し低い声で名前を呼ばれた。



「永瀬くん、あっちの…」


「あー、指差さないほうがいいぞ」



疑問に思っていることを聞こうとしたら、難しい顔をした永瀬くんが頭をかきながら、独り言のように、そっか春田は知らねぇのか…と呟いた。




「芸能人?」


「……まぁ、そういうことにしとく。有名人かな」


「有名人…」



そっか、じゃあ私は分からないかも。

テレビはあまり見ないし。



「春田は知らなくていいよ。夜にここへひとりで来ないだろ?」


「来ない、ね」


「なら気にすんな。それに、俺もそんな深いことは知らねぇしな」



軽く笑った永瀬くんは、お店の予約時間が迫ってるからと私の背中に手を添え、前へ進むことを促した。

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