第6話

そっと顔を上げた先にいたのは、黒いTシャツに細身のデニムというシンプルな格好ながら、どこか目を惹かれてしまうような男の人だった。



「お姉さんは大丈夫?」



私の身長に合わせるように腰を屈め、下から覗いてきたその整った顔立ちとの距離に思わず頬が熱くなる。



ち、近い…。



夏の夜風をうけ揺れる男の人の黒髪が私の頬に触れ、それと同時に勢いよく顔を逸らした。




「だ、だい、丈夫ですっ」


「そっか。あ、でも…」


「えっ…?」


「こっちは大丈夫じゃなさそうだね?」




手に持っていた携帯が抜き取られ、眉を下げて笑った男の人がひび割れた部分を指してみせた。



「あっ、嘘…」



電話の時に耳を当てる部分に細かなひび割れがあり、小さなショックを受ける。




「壊れてないか確認しよっか」


「確認…?」


「うん、確認」



そう言って、男の人は私の携帯を操作し始めた。

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