第5話

「すみません、お会計お願いします」



伝票を持ってレジへ行くと、奥山さんは少し目を丸くする。



「あれ、綾ちゃんがこんな時間まで居るなんて珍しいね?」


「あ、気づいたらこの時間で、私もビックリしました」



ははっと軽く笑うと、お会計を終えた奥山さんが、気をつけ帰るんだよと言い手を振ってくれた。




チリン、という音と共に外へ出れば涼しい風が頬を撫る。その心地よさを感じながらバス停まで歩くのが、結構好きだったりする。





そうだ、今日はいつもと時間が違うから確認しておかないと。この時間ってまだバスあるかな…。なかったら電車かなぁ。




そんな事を考えながらバッグから携帯を出した時、よそ見をしていたせいで人とぶつかってしまい、その拍子に手元を離れた携帯が、結構な音を立ててアスファルトへ落ちた。



「あっ!…あ、ご、ごめんなさいっ」



慌てて携帯を拾い、ぶつかった相手に頭を下げた。



そして少しの沈黙の後、





「…顔、あげてよ」



低く通る声が落ちてきた。

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