第二十七話「バスケ」
空狐たちと登校中――
「お姉さまおはようございます!」
「ごきげんよう白百合のキミ!」
「白桜様……今日もお美しい……」
ボクに向けられる視線や声援に対してにっこりと笑みを浮かべて応える。
「ごきげんよう皆さま。今日もいい日ですね」
「「「「きゃーーーー!!」」」
黄色い声が響き渡る。
「……ずいぶんとこなれてきたねユリコ」
「かもしれませんね。向けられた好意には応えたくなるので」
半分は本音だった。
「流石ですねユリコさん。私はどうにもこういうのが苦手で、不愛想でしかたないです」
「犬童さんはそれがいいんだと思いますよ」
実際犬童ファンは遠巻きに彼女をうっとりとした瞳で見つめる者が多い。
「そ、そうですか?」
「はい」
「まったく、すっかり私がオマケ扱いだよ」
「それはありませんよ。空狐さんに向けられている視線の数、私の比ではありません」
「その中から純粋な好意の視線だけをカウントいたらどれほど少なくなると思う?」
「数より質ですよ桜花さん」
「質までは私でも判別できないよ。ユリコはわかるのかい?」
「はい。私もその一つですから」
「っ、ふんっ。ま、まぁ、そのおべっか、悪くないと言っておこうか。別になんとも思わないが」
「顔が赤くなってますよ空狐様」
「なってないー!」
体育・バスケ――
特待生は学力だけでなく身体能力も高くなければいけない。そのため加減しつつも皆の期待に応えられる程度には活躍する必要がある。
「ユリコが味方とは心強いね。頼りにしているよ」
「特待生の名に恥じない程度には頑張りたいところです」
「いい試合にしましょうね、ユリコさん」
「はい犬童さん」
空狐と同じチームで相手チームには犬童と委員長がおり皆の注目の的だった。特に今日は一年との合同授業であるため数も多い。
「ユリコはバスケは得意かい?」
「得意というほどではありませんが、スポーツは一通り習っておりますので」
「お手並み拝見といこう」
「ああ……なんて絵になるお三方なんでしょう……」
「白百合お姉様……体操着も素敵です……」
「白桜様と犬童様の試合が見れるなんて……」
試合が始まる。
「ふ……っ!」
「は!」
犬童とのジャンプボールを制したのはボクだった。
「ナイスユリコ!」
ボールを取って相手ゴールに向けてドリブルする空狐に委員長たちが向かい、犬童はボクをマークしている。
空狐とチームメイトとの連携でゴール前まで近づくと。
「ユリコ!」
犬童にマークされているボクを見てニヤリと笑った空狐がボールをパスしてくる。
「かっこいいところを見せてくれ!」
「無茶ぶりを……」
「させません!」
ボールを受け取りながらボールを奪おうとする犬童をフェイントを交えて躱しつつ振り切ってそのまま大きく跳んでワンハンドダンクシュートを決める。
「「「「キャー!!」」」」
黄色い声が体育館中に響き渡った。
そうして本日最後の授業である体育の授業が終わった。
「本当にユリコは期待に応えてくれるね。まさか弥生を振り切って本当にゴールを決めるとは」
「甘く見ていたわけではありませんが、あれには驚きましたね」
愉快そうな空狐とため息混じりの犬童。
「たまたま上手くフェイントが決まっただけですよ。現に試合は僅差でしたし」
「私的にはあの跳躍力のほうが驚きだけどね。フォームも見事だったし」
「同意です」
「全身を上手く使えばあれくらいなら誰でも跳べますよ」
「……跳べないと思うよ? まったくユリコは罪な女だ。あの授業の時間だけでいったい何人失神したんだか」
「また妹が増えてしまいますよユリコさん」
「それは複雑ですね……。おっと、それではいったん失礼します」
更衣室の前で別れ、ボクは離れた場所にあるトイレで着替え済ませ、教室で空狐たちと合流する。
「ユリコはいつもどこで着替えてるんだい?」
「あまり人が使わない離れのトイレを使っています」
「それは大変だろう? 申請してサロンで着替えればいいんじゃないかい? キミのように肌を見せたくなくてそうする生徒も少なくないよ」
「ご助言はありがたいのですが、私のワガママでしているのですから、これが相応だと思っております。それに、清華のトイレは広くて清潔ですし不満も感じておりません」
「なるほどねぇ……。本人がそれでいいのなら無理強いはしないさ」
「ホームルームを始めますよ~」
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