第二話「説明」
「正面に見えるのが部活棟よ。中高共同で生徒会とか部活動で使われてるわ。その左右にあるのが本校舎。左が高等部、右が中等部よ」
高等部の校舎へと続く先生の後についていく。
「姫草さんは高等部だから左側よ、間違えないでね。間違えたら先生泣いちゃうんだから」
「では、先生に構って欲しくなったら右の校舎に行きますね」
「もうっ姫草さんったら」
二人で笑い合いながら高等部の校舎に入る。中を案内されるのかと思いきや、何故かまっすぐに来客室へと案内された。
先生が出してくれたお茶を飲みながら、自分がこれから使うことになる靴箱や教室、校舎内の説明や、清華女学園内についての施設等の説明を、校内図や実際の写真を交えながら説明してもらった。
ただ、実際に案内してくれたほうが早いのではないかと疑問に思う。
「それと……はい。これが姫草さんの学生証よ。清華では学生証が身分証明だけじゃなくて、部屋の鍵やクレジットカードの代わりにもなってるから、なくしちゃだめよ」
学生証を受け取る。プラスチックのような材質の免許証ほどの大きさのカードだ。
「クレジットカードですか?」
「そうよ。清華の中では基本的に現金を持つ必要はないの。学内での買い物なら、購買も学食も自販機も、支払いのときに学生証を提示すれば終わりよ。支払いは月末にまとめて親御さんに請求されるようになっているの」
「なるほど、便利ですね」
「ふふっ。そうね。ちなみに姫草さんは特待生だから大体の支払いは免除になるんだけど、学内で購入した物のリストは保護者の方、姫草さんならバートリー卿に送られることになっているから、見られると困るようなものは買っちゃダメよ?」
先生がウインクをする。
「見られて困るようなものが売っているので?」
「それはアーケードに行って見てからのお楽しみよ」
「なるほど、それは楽しみです」
あとで発信機やGPSの類が埋め込まれているか調べる必要があるだろう。
「学生証も渡したし、それじゃあ次は、一番大事な、この学校ならではの特殊なマナーやルールについて説明します」
「よろしくおねがいします」
それから先生にこんこんと清華独自のルールやマナーの話を聞いた。
「……こんなところね、どうかしら姫草さん、わからないところとかあったかしら?」
「いえ大丈夫です、分かりました」
お互い緑茶をすすって一息つく。
「じゃ、今から一番大事な話をするわね」
先生が真面目な顔で切り出したので、湯飲みを置き続きを促す。
「通常の編入生なら土日に来てもらって、清華の校内、校舎や寮の案内をするんだけど、平日である今日に、しかも早朝に姫草さんに来てもらったのには理由があるの。簡単に言うと、貴女を紹介する前に、生徒たちに合わせたくなかったからなの」
「? どういうことでしょう?」
先生の予想とは違った話に不意打ちをもらった気分になる。
「いい姫草さん? 特待試験は一度に何千何万という人が受けるの。お金に困っていなくても、箔をつけたい在校生が受けることも少なくないわ。もちろん要求を満たす者がいない場合は合格者なし。ちなみに、今回合格したのは姫草さん、あなた一人だけよ」
「え……?」
「しかもそれだけじゃないの。現在校生の特待生は、姫草さんを含めても二人だけなの」
「…………」
「あの内容なら合格者なんてそうそう出るわけないわ。身内にすら科挙と揶揄されるくらいだもの」
「……実は私もこの国の受験はクレイジー過ぎると思っていました」
「お気の毒にね……」
生が哀れみの目を向けながらも「だけど……」と続けた。
「でも仕方のないことでもあるのよ。ここの入学金や学費はとても高いの。無理をして入学させる親御さんも少なくないわ。だからこそ、全ての費用を免除される特待生は、それに見合った、特別待遇を受けられるだけの、皆の規範となるような能力と人間性が要求されるの」
苦笑する来島先生をよそに、思わず天井を見上げ、遠くにいるマスターを思い浮かべた。
マスター……そんな情報聞いていませんよ――
何故か笑顔でサムズアップしているマスターの顔が浮かんだ。
「でもそんなこと言って受かっちゃうあたり、姫草さんもとんでもない人ね」
「自分では分かりません。ただただ必死でしたから……」
「というわけで、校内はずっとあなたの話題で持ちきりなの。特待生は校章も他の生徒のとは違うからすぐに分かるわ。しかも姫草さんとっても美人だから、一回人が集まりだしたら……きっと収集がなくなるわ――」
その状況を想像したのか、出会って初めて先生の眉間にシワが寄った。
「それは困ります……目立つのはあまり好きではありませんから……」
本当に困ったことになった――
マスターの指示で今回は地毛である白髪を隠さずにしているため、多少目立つことは想定していたが、こんなに悪目立ちすることになるとは思っていなかった。事がこうなってしまっているのなら、早々に方針を転換させたほうが良いのかも知れない――
「でも大丈夫! 先生姫草さんが困らないように、とっても頼りになる人にお願いしておいたから!」
と、自信満々に胸を張る先生にむしろ不安を覚える。
「それはどういう……」
コンコンコンコン――
意味でしょうか? と続けようとした言葉を遮るようにドアがノックされた。
「あらっ話してたらちょうどね。どうぞ~」
「失礼します」
「失礼します」
ドアがゆっくりと開き、二人の生徒が顔を覗かせた。
先頭に入ってきた人物の顔を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた――
艶めく黒髪に、目の上で切り揃えられた前髪から覗く、大きな金の双眸を持つ少女――
間違いない、彼女は、今回の
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