第36話 嘘告
そして修学旅行二日目。
本日はグループごとに分かれて自由行動となっており、京都を散策することになっている。
俺たち男子グループは清水寺に行ったり、八坂神社に行ったり、祇園白川エリアで風流な景色を楽しんだり、円山公園で自然を堪能したり、途中でオタクくんがアニメ聖地の豆知識を披露してくれて感心したり、バカなノリもありながら京都の街並みを堪能した。
お腹が空いたら蕎麦を食べたり、お団子やアイスクリームなど甘味を食べたり、食もたっぷり楽しむことができた。
そして帰りのバスの中。
隣はやっぱり赤羽だ。
「七海、自由行動どうだった?」
「ああ、楽しかったよ。八坂神社良かったわ。鳥居があんな並んでるのは壮観だったな」
「あそこアタシたちも行ったし、たしかに超良かったわ。超映えスポットだったし、写真撮りまくっちゃった」
「はは、映えスポットってなんかJKみたいなこと言ってんな」
「むしろ正真正銘のJKなんですけど?」
自由行動で行った場所や印象に残ったものなどをお互い語り合う。
そうやって話していると、ふと赤羽が、突然改まった様子で切り出した。
「——あ、そ、そうだ。七海、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「あの……ちょっとお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「ええ、よかったらなんだけど……明日、三日目の夜にちょっと時間作ってくれない?二人で話したいことがあって……」
「二人っていうと、委員長の仕事的な話?それって今じゃダメなのか?」
「う、うん。タイミング的にも内容的にも、明日の夜がいいかなって……だ、ダメかしら?」
「いや、いいよ。でも明日泊まる旅館ってどんな感じかもわからないし、二人で話すとこあるかわかんないから、明日の雰囲気見て連絡するか」
「あ、ありがとう!それじゃあよろしくね!」
「おう、了解」
そうして俺は三日目の夜に赤羽と二人で話すことになった。
◆◇
そして修学旅行三日目。
本日は大阪へ移動し、テーマパークのUNJでグループごとに自由行動という予定になっており、童心に帰って遊びまくるだけだ。
恐竜がテーマになったジェットコースターで叫んだり、ホリーパッターの世界に入り込んで魔法使いの気分になってみたり、ノンテンドーエリアでカートを体験したり、とにかく時間の許す限り楽しみまくった。
気の合う男友達グループ特有のバカなノリで数え切れないくらいの思い出を作りながら、充実した一日を過ごすことができた。
そしてやって来た三日目の夜。
旅館の大広間で晩ごはんを食べ、お風呂にも入り終え、まずはそれぞれの部屋でまったり。
現在はグループのメンバー全員で集まって雑談に興じているところである。
「はー、もう明日帰るのかー」
「楽しい時間はあっと言う間でござるな」
「でもまだ修学旅行の夜は終わってないからね。まだまだ楽しもうよ」
「よしじゃあ、修学旅行の夜といえば……」
「恋バナだよな!……って言いたいとこだけどよ……」
「だよねー……」
「ござ……」
なんて言いながら、全員が俺の方を向いてくる。
「おれたちが恋バナしようと思ったら、七海の話は避けて通れないんだよな」
「うちの学校の可愛いどころがほとんど全員七海くんのお手つきになってるからね」
「お手つきとか人聞き悪いなぁ。そもそも俺は手つけてるつもりないし」
「いやいや。黄瀬さんと青島さんは明確に告白してるし、藍沢会長もメス顔させて、噂では橙山さんも七海のこと好きなんだろ?」
「見事にキレイどころがほとんど網羅されてますなぁ」
「でも青島さんに関しては一時期すごかったけどさ、彼氏と別れてから完全に落ち着いた感じじゃない?」
「たしかに。というかむしろ前よりも雰囲気柔らかくなって親しみやすくなったぶん、一気に人気が跳ね上がってる感じあるよな。この前の一連の騒動に目を瞑れるなら、ルックスは飛び抜けてるわけだし」
「というか何人かもう告ったらしいって話は聞いたぞ。まぁ全員玉砕らしいけど」
「へー、早速すごいね。でも今の青島さんの様子見てるとそれも頷けるかもなぁ」
「じゃあ改めて考えると、あと目立つところで光のお手つきになってないのは……」
「緑川さんと赤羽さんと白河さんってところか」
「でも赤羽さんは雰囲気的に七海に矢印向いてそうだしな。実質お手つきか」
「俺はそんなことないと思うけど」
「ていうか緑川さんも、疎遠だったって言ってた割には最近よく話してない?」
「俺の声をスルーしないで。緑川に関しては、きっかけがあっただけだよ。向こうの親に頼まれたのもあって、テストの時に勉強教えてるんだ」
「家族ぐるみの付き合いってやつでござるか。ザ・ラブコメ幼馴染ですな」
「ていうか光、緑川さんとは付き合い長いんだろ?あんな可愛い子とずっといっしょにいて、今まで一度も好きになったりしなかったのか?」
「んー……まぁ家族としての好きってやつかな。妹みたいな感じだと思う」
「あー、アニメの幼馴染キャラでよく聞くやつね」
「幼馴染は大体それが理由で負けますからな」
「あれは?幼馴染によくある、将来結婚の約束しました!なんてことも無いの?」
「……いや、緑川とは別にそんな約束はしてないよ」
「さすがにそこまでラブコメではござらんか」
「じゃあ緑川さんが初恋ってわけじゃないんか。ていうか光って初恋とかも無かったのか?」
「初恋か……そこまでいくかどうかはわからんが、小学校で他に仲いい女の子とかは普通にいたよ。でも転校してったり校区変わったりで結局疎遠になったけどな」
「ふーん、まぁそんなもんだよな」
「というかそもそもラブコメの幼馴染って存在が奇跡みたいなもんだし、七海くんにとっての緑川さんが特別過ぎるだけだよね」
「じゃあ緑川さんはまた別として……目立ちどころで明確にお手つきになってないのは、白河さんだけってことか?」
「白河さんって浮いた話も全然ないよな。まぁ見た目とかの近寄り難さとかかもしれんが」
「そう考えると、マジで白河さんって狙い目なんじゃね?」
「個人的には、地雷系よりも普通の格好した方が絶対可愛いと思うんだけどねー。本人にそれ言ったらめちゃくちゃ怒られそうだけど」
「いや、付き合ったら髪型とかファッション変えてほしいってお願いすればいいんじゃないか?やっぱ白河さん伸び代だらけだし、めちゃくちゃアリな気がしてきたわ……」
「スミレたんはあれがいいんじゃないか!あとスミレたんを狙うなんて言語道断だぞ!」
「でも白河さんも光と仲良いけどな」
「た、たしかに……もう裏では、なんてことも……」
「ないない。白河も普通に友達だよ」
「「「「信用できるか!!」」」」
「おれたちが何度それに裏切られたと思ってるんだ!」
「いい加減彼女作るでござる!」
「もう誰でもいいから今すぐ告ってきなよ!」
「黄瀬さんならハッピーエンド確実だぞ!」
「んなことできるかバカ!」
「バカとは何だバカ!」
「うおっ!?いきなり枕投げるなバカ!」
「うるせぇバカ!もうこんなモテ男やっちまおうぜ!」
「「「「おー!!」」」」
そうして突発的に枕投げ大会が開催。
なぜか俺vs全員の構図になり、勝てるはずもなく。俺は全員から枕で滅多打ちにされた。
◆◇
さっきからずっと赤羽と話すために抜け出す隙を伺っているのだが、普通に無理っぽい。
抜け出すための口実作りも難しいし、バカ正直に赤羽に会いに行くなんて言ったら男子たちに何を言われるかわからない。
そして何より外では定期的に教師が見回りをしており、いつエンカウントするかもわからないので、あまりにリスキー過ぎる。
これはもう仕方ない、ということで赤羽にはメッセージで抜け出すのが難しい旨を送信。
それからしばらく待つと、赤羽からの返信。
『こっちも抜け出すの無理そうだったから、修学旅行明けの学校で話す』とのこと。
結局お預けのような形になってしまったが、まぁ仕方ないだろう。
そうして修学旅行四日目は大阪の自由散策。
午前からお昼過ぎくらいまでなのでそれほど時間もなく、たこ焼きを食べたり道頓堀エリアで観光名所を楽しんだり。
その後は帰るために新幹線へ。
修学旅行で楽しかった思い出などを語らっていたらあっという間に地元の駅に到着。
そして現地解散し、俺たちの楽しかった修学旅行は終わりを迎えた。
◆◇
それから週明けの平日。
修学旅行という学生の絶頂イベントが終わり、一転してただの日常。
あまりに楽しすぎた時間への喪失感が半端ない。
そんな退屈な一日を終えて、いよいよ赤羽との約束の時間。
校舎裏で二人で話したいとのことだったので、そこへ向かう。
そしたらすでに赤羽は待っていた。
「すまん赤羽、待たせたか?」
「う、ううん。さっきHR終わったばっかりだしさ、アタシも今来たところよ」
「そっか、それなら良かった。しっかし、修学旅行から待たされてたから、何の用かとはずっと気になってたよ」
「う、そ、そうよね……アタシも早くしたかったんだけど、そこはゴメン……」
「はは、冗談だよ。それで、結局何の用だったんだ?」
「え、ええ……そうね……」
そう言って赤羽は手をゴニョゴニョとまごつかせている。
「……あ、アタシと七海が最初に出会ったのって、一年生のクラス委員長決めのときよね」
「ん?ああ、そうだな。まぁお互いを初めて認識したって意味ではあの時だと思うよ」
「それから大体一年半くらい、七海とクラス委員長として二人でやってきたわ」
「一年半かぁ。なんか長く聞こえるけど、こうして終わってみると一瞬だったなぁ」
「うん。でもそのクラス委員長はホントに大変だったし、アタシ一人じゃ絶対に成し遂げられなかったと思う。でも七海が一緒にいてくれたおかげで、ここまでやってこれたと思うし、アタシは七海に本当に感謝してるの。だからありがとう」
「はは、改まってお礼なんてらしくないな。でも、俺だって赤羽が一緒にいてくれたからクラス委員長ができてたと思うし、赤羽がいなければ無理だったってのは多分俺も一緒だよ。だからこちらこそありがとな」
「……ええ、そう言ってくれて嬉しいわ」
「おう。もしかして言いたかったことってそれだった?」
「い、いや……本題はそうじゃなくてね……」
「あれ、そうなのか?」
「うん。あのね……」
そして赤羽は深く呼吸を整えてから、そして。
「——アタシ、七海のことがずっと好きだったの!だから、良かったらアタシと恋人として付き合ってください!!」
……なるほど、やっぱりか。
俺は割と場の空気などは読んでしまえる方だと思っているので、なんとなくこうなるのではないかとは事前に考えていた。
しかもここは緑川にも告白されていた場所なので、どうしてもシチュエーションが被って意識してしまう。
さっきのらしくない口上的なものは心の準備みたいなものだったのだろう。
たしかに赤羽は、俺の高校生活において特別な存在であることは間違いない。
それに美少女と評されるだけあってそのルックスも魅力的だと思うし、一年半という付き合いではあるが、ある程度気心は知れた仲だと俺は思っている。
だから俺は、赤羽のことも『好き』なんだ。
……だけど。
告白の返事はもう、決まっている。
「ありがとう。好きだって言ってくれて嬉しいよ。でも申し訳ないけど、俺には好きとか恋愛とかよくわからないから、彼女を作るつもりがないんだ。ホントごめん」
そう言って答えると、目を見開き驚く赤羽。
「え……ぇ、あ、そっか。そう、なんだ……」
赤羽は戸惑いながら小さな声でそう呟き、俯いた。
「「……」」
お互い、沈黙の時間が流れる。
こ、このパターンか……
何かもっと反応してくれないと俺としても困るんだが、何か声を掛けた方がいいんだろうか……
……なんて、悩んでいると。
「……ふ…………ふふ……」
「……?」
赤羽が何やら含み笑いのような声を上げ始め。
「ふふ……アハッ!アハハハハ!」
「!?」
終いには、大声を出して笑い始めた。
その理由が全く理解できず、俺はただただ困惑する。
「ど、どうした赤羽?大丈夫か?」
「あ、ああ、ゴメンね七海。ちょっと真面目な雰囲気に耐えられなくなったっていうか……ね」
「……ん?どういうことだ?」
「——ごめんごめん、実はコレ……罰ゲームの告白だったの!嘘告ってやつよ!」
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