第34話 クラス委員長
今回の修学旅行では、自由行動は自分たちで決めたグループで行動できるが、それ以外は基本的にクラス毎での行動だ。
その際にクラスメンバーの点呼をしたり連絡事項を伝えたりするのは各クラス委員長の役割となっているので、この修学旅行中は必然的に赤羽と一緒にいることが多くなる。
バス移動も結構あるのだが、メンバー点呼などの関係でクラス委員長は座席固定としているので、この修学旅行中のバス移動は赤羽とずっと隣合わせ。
これが気まずい女子相手とかだったらちょっと考えものだったが、赤羽相手なら気を遣わなくて済みそうだし良かったと思う。
「赤羽は自由行動のグループはどんなメンバーで集まったんだ?」
「アタシは中学校の時仲良かった子たちで集まったわ。クラス別れてからあんまり顔合わせられてなかったし、こういう時くらい集まろっかって感じで」
「なるほどな。じゃあ青島とかと同じグループってことか?いつか中学一緒って言ってたし」
「いや、あの子は別よ。たしかに水澪は中学一緒だったけど、その時はたまーに話す程度だったし。高校が一緒になって、委員会活動でも顔合わせる機会多くなったけどね」
「へぇ、そうなのか」
「水澪といえば、最近すごかったわよね。ミスコンでいきなり七海に告白したかと思えば、すぐに他校の彼氏作っちゃうし。アタシが知ってるあの子からは本当に考えられなかったわ……」
「たしかになぁ……付き合いの短い俺からしても青島があんな風になるとは思いも寄らなかったし……」
「でも最近は結局落ち着いたわよね。よっぽどあの事件がショックだったんだろうけど……無事で良かったと思うわ」
「だな。マジで間一髪だったし、110番とか人生で初めてだったよ」
「本当に七海、よくやったって感じよ。というか今年の七海はホント話題に事欠かないわねー」
「はは……俺も色々お騒がせしてる自覚はあるよ……」
「もうそろそろ落ち着いた方がいいんじゃないの?」
「俺自身はずっと落ち着いてるつもりなんだけどなぁ……まぁこの修学旅行はしっかり羽伸ばさせてもらうよ」
「ふふ、そうね。七海たちは明日の自由行動どんな感じで過ごすの?」
「とりあえず清水寺と八坂神社には行こうかって話しはしてるよ。まぁ鉄板だし。後は流れに任せてって感じかな」
「アタシたちも似たような感じね。祇園エリアだと見るとこいっぱいで何も考えなくても楽しめそうだし」
「ああ、楽しみだなー。……そういえばこの後、金閣寺行く前にお昼ごはん食べるんだっけ?」
「ええ、行った先でお弁当が配られるから、近くの広場みたいなとこで食べるみたい」
「じゃあ多分配るのも俺らの仕事か。着いたらさっさと見ないとな」
「ホント、この学校って委員長使いが荒いわよねー」
「たしかになぁ。特にこの修学旅行とか、委員長出突っ張りだし。俺らよく二年間もこの役職やってるよな……」
「そうね……でもそれなら七海はなんで二年生も委員長やろうと思ったの?去年はお互いじゃんけんで決まったけど」
「そうだなぁ……まぁ周りの奴らに持て囃されて調子に乗っちゃったんだろうな……」
「へぇー、なんか意外。七海ってそういうとこはチョロいのね」
「そう言われても否定はできないな……でもそう言う赤羽はなんで委員長になったんだ?」
「そそ、それは、アタシも七海と同じ理由よ。やけに褒められちゃって断れる雰囲気じゃなくなっちゃったし……」
「はは、じゃあ赤羽も人のこと言えないじゃん」
そんな話をしていたら、クラス委員長として過ごしてきた赤羽との思い出が呼び起こされた。
◆◇
俺が初めて赤羽と言葉を交わしたのは、一年生の最初でお互いじゃんけんに負けてクラス委員長となり、最初に挨拶した時だった。
「赤羽ね。俺、七海光。よろしくな」
「赤羽楓です。こちらこそよろしく」
もちろんお互い初対面なので、やはりその時は二人ともぎこちなかったと思う。
そして俺たち二人でクラス委員長以外の委員を決めるためのHRが開始。
始まったばかりの高校生活で、見知らぬクラスメイトたちを前に教壇上に立ち、HRを進めるというハードルの高さよ。
俺もなかなかに固くなっていたと思うのだが、赤羽は俺以上にカチンコチンだった。
今の赤羽からすると考えられないのだが、アワアワと落ち着かず、声も小さく後方の席まで届かないくらいで、恐らく今までこのように皆の前に出るようなことはなかったんじゃないかと思う。
正直この時は彼女に対して不安を持っていたが、立場が人を変えるのか、だんだんと堂々とした態度を見せるようになってくれた。
そして今では、クラスメイト全員から頼られるクラス委員長としての立場を確立している。
またそれだけでなく、赤羽はルックスにも磨きをかけていって、その存在感を発揮していった。
何がどう変わったかは女子のオシャレに疎い俺では具体的に言えないのだが、入学当初よりも明確に垢抜けていっており、男子からの注目を大きく浴びるようになったようだ。
今では黄瀬や緑川と肩を並べるくらいモテるようになっているらしいし、いつだったかテニス部のイケメンにも告白されていたという話も聞いたこともある。
そしてそんな赤羽とクラス委員長として共に過ごしてきたこれまでの時間は、俺にとってある種特別なものとなっていた。
今まで務めてきてわかったが、常陽高校でのクラス委員長という立場はとても大変だったから。
文化祭や体育祭などのイベントでは全て実行委員を強制的に任せられるし、HRでは司会進行などは全て任せられるし、定期的に開催されるクラス委員会にも出席しないといけないし、教師の小間使い的な扱いを受けることだってあるし、入学前案内会などで休日にも登校を強いられることすらあるのだ。
その上、何かしらでクラスをまとめる必要が出てきたりした場合は、暗黙の了解かのように全員からクラス委員長にその役割を求められる。
特に今回のような修学旅行のようなイベントなどはそれが顕著だ。
何かわからないことがあれば俺や赤羽に聞かれるし、なんとなく「クラス委員長ならわかるだろ」みたいに思われているのかもしれない。
そういった見えないプレッシャーもあったりと、実はかなり大変な役職だというのが、今まで務めてきた俺の感想だった。
そんなクラス委員長をこれまで務めて来れたのは、やはり赤羽という存在が隣にいてくれたのが大きい。
同じ被害者意識みたいなものもあるかもしれないが、やはり二人で一緒に仕事してきた絆みたいなものは生まれているだろう。
一年生の最初の頃は、新しく始まったばかりの高校生活の中で、更に不慣れなクラス委員長という立場を任され、お互い苦労した。
しかしそんな中、手探りながらもお互いに支え合い、今日まで大きな失敗をすることなくやって来れたように思う。
緑川は幼馴染だから別として、高校生活が始まってからの同学年の女友達でいえば、黄瀬もクラスがずっと一緒で長い時間をともに過ごしてきたし、白河や青島だって大切な友人なんだが、赤羽はちょっとまた別カテゴリだという感覚を持っていたりもする。
言葉にしてみるなら、『戦友』という感覚が一番近いだろうか。
俺は家庭の事情もあり部活に入ってないから、放課後に残る学校の用事としてはクラス委員長としての仕事くらいなので、彼女はある意味俺にとって唯一の部活メンバーみたいなものだ。
だから赤羽だけとしか共有できていない委員長特有の思い出というのもたくさんある。
それにクラスのメンバーで集まって遊んだりだとか、バイト先に遊びに来てくれたりだとか、プライベートで会う機会も結構ある。
少しツンとした口調の持ち主ではあるが、逆にそれで遠慮なく接することもできるように思うし、ノリの良さもあって話しやすい。
そんな理由で、俺は赤羽楓という女子のことを、高校生活において特別仲がいい女友達だと思っているのだ。
◆◇
そうこうしている内に、バスは目的地に到着。
バスの中で話していた通り、到着後はバスの中で話していた通り俺と赤羽で手分けしてお弁当を配り、昼食タイム。
その後は金閣寺へ。
風流な道を歩いていけば、そこには教科書でも見たことがある金色のお寺。
修学旅行という場の雰囲気もあるだろうが、みんなスマホで金閣寺を撮影したり自撮りしたりとひたすらテンション高めである。
金閣寺見学が終わればまたバス移動で、赤羽と会話。
「いやー、金閣寺すごかったな。教科書に載ってる建物を実際目の前にするのも初めてだったし、感動したぜ」
「あんな金ピカな建物なんて他にないものね。でもどっちかって言うとアタシはあの場所の雰囲気とかの方が好きだったわ」
「ああ、わかる。なんか風流というか、いかにも禅?って感じだよな」
「でも、もうちょっと観光客少なければなぁってのは思ったわね……」
「たしかに。修学旅行シーズンってのを抜きにしても、人めっちゃいたよな」
「明日の清水寺とかもこんな感じかなのかしら」
「あー、あっちはもっと人すごいかもな……」
そうしてバスの中で話しながら、次は染め物体験へ。
友禅染なる伝統的な染め物らしく、染料を自分で混ぜたり塗ったり、なかなかできない貴重な体験ができた。なお俺はこういう器用な作業は苦手だったりするので、他のヤツに比べてなかなかうまくいかなかったが。
そして染め物体験が終了したら、やっぱりバス移動で赤羽と会話。
「赤羽、染め物ちゃんとできた?俺全然ダメでぐちゃぐちゃになったんだが」
「ふふ、手芸部の器用さをナメないでほしいわね?結構うまくいったわよ。ほら、これ写真」
「おお、マジだ。さすがだなー。俺なんかグチャグチャだったから恥ずかしくて写真撮るとかいう発想なかったわ……」
「せっかくの修学旅行なんだし、写真撮らないともったいなくない?」
「それもそうだな。次からは意識して記録に残してくか」
こんな感じでバス移動は基本的に赤羽とベッタリであった。
そして楽しい時間はあっという間なようで、一日目に予定していたプログラムは終了し、旅館へ。
自由行動でのグループでそれぞれ部屋に分かれて、大浴場に行ったりちょっと遅くまで話したりと妙なハイテンションになりながら、修学旅行の一日目を満喫した
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