修学旅行 編
第33話 修学旅行
文化祭で青島に公開告白されたり、青島を暴漢たちから助けたり、なかなかにスリリングな日々を過ごしてからしばらくが経過。
中間テストでは3位という順位を取れてちょっと喜んだりして、次のイベントは修学旅行だ。
高校生活三年間の中でも最大の、一生の記憶に残るであろう、青春の最盛期とも言える特大イベント。
我が常陽高校の修学旅行の行き先は、毎年京都と大阪だと決まっている。まぁ鉄板だよな。
そして今は、自由行動と宿泊時におけるグループ決めの時間。
基本的にはクラス毎に行動するのだが、自由行動と宿泊時のグループに関しては、クラスの枠を超え学年を通してメンバーを決めることができる。ただし男女は別々。
なので今の時間は、俺や赤羽がクラスでHRの司会をするでもなく、講堂に二年生全員が集合し、各々で自分たちのグループのメンバーを決めているところである。
かと言って俺たちは他のクラスメンバーを募ったりはせず、いつものクラスの定番男子メンバーで固めることになった。
そして全員がグループを決められたところで、本日の授業も終わり。
あとは帰るだけ、というところで。
「あー光、ちょっといいか?」
柊斗にそうやって話しかけられた。
「ん?どうした?」
「今週末ヒマ?修学旅行の準備の買い出しとか行かねー?大きいカバン無くてさ」
「俺はいいけど、彼女さんは?」
「彼女今週末は部活の試合なんだってさ。オレの部活の予定と合わないし、他のヤツらも予定合わないみたいでさ、なら光と行こっかなーって」
「そっか、じゃあ行こうか。俺も日用品とか微妙に足りなそうだし、色々見ようかな」
「おっけ。じゃあ土曜日の昼で——」
「——あ、二人も買い出し行くのー?」
俺と柊斗が会話してると、横からそうやって話しかけられた。
そちらを向いてみると、黄瀬と白河の二人。
「ああ、そうだよ。何かあったか?」
「今ちょうどさ、ウチとスミレも今週末買い出し行こうかって話してたのよ。どうせなら四人で一緒に行かない?」
「俺はいいけど、柊斗は女子がいて彼女さんとか大丈夫か?」
「いや、こういうのは事前に説明しておけば大丈夫だぞ。もちろん異性と二人きりは絶対ダメだけど、複数人のグループで遊ぶならOKってお互い決めてるからな」
「へー、そうなんか。そこはカップルによりけりだなぁ」
「じゃあ、この四人で買い出しだね〜。決定〜!」
「おっけー。じゃあよろしくな」
◆◇
そしてその週末の土曜、お昼過ぎに駅で集合。
ひとまず柊斗と合流し、その後黄瀬&白河の派手ビジュコンビが改札から姿を出した。
「二人とも、お待たせー」
黄瀬がギャルギャルしい声で俺たちを呼びかける。
黄瀬は着崩したサイズ感などが特徴なザ・ギャル、白河はフリフリの装飾が目立つザ・地雷系というファッションをそれぞれ纏っており、学校で見る以上に視界が華やかである。
そうして俺たち四人はいつものショッピングモールへ。
それから各々が欲しいものを挙げて、目的の店に付き添っていくという流れ。
柊斗の大きめのバッグを買いに行ったり、黄瀬と白河の旅行用コスメを買いに行ったり、足りなかった日用品を買いに行ったり。
そして一段落したところで、カフェで休憩する。
「黄瀬さんたちは修学旅行のグループどんなメンバーになったんだ?」
「ウチらは去年のクラスのギャルグループで集まったよ」
「すーが知ってるメンツで集まりたかったからね〜。人見知りしてかたじけない〜」
「んーん、いいのよスミレ。ウチが守ってあげるからねー、よしよし」
「俺たちは結局クラスの男子たちで集まっちゃったよな」
「あー、あそこのメンバーね。たしかに安定のいつメンって感じだねー」
「ま、無難だけどやっぱりその方が楽しめたりするしな」
「それで、今日はもうみんな目的のものは買い終わったけど、この後どうする?」
「んー、そうだな。何もなければ解散でもいいし、ちょっと遊んでってもいいけどな」
「え〜せっかく集まったんだし、もうちょっと遊んで帰ろうよ〜」
「じゃあテキトーにブラブラしてくか」
「あ!じゃあウチ服とか見に行きたいかもー」
「お、いいね。黄瀬さんとか白河さんがどんな感じで服選ぶのかとか気になるわ。もしかしたら彼女にも教えてあげられるかもだし」
「たしかにな。ギャルとか地雷系の服選びとかそうそう見れるもんじゃなさそうだし」
「……ねぇねぇ、ななぴーって地雷系のファッションってどう思う?」
「へ?どうした急に?」
「スミレがそういう質問するのなんか珍しいねー」
「ん〜、なんとなく?ちょっと気になったから〜」
「ふーん。まぁ俺は地雷系のファッション結構好きだよ。なんか他の服装にはない独特の魅力っていうか、女の子を可愛く見せる効果すごいよなーって思うし。白河にも似合ってると思うぞ」
「……へ〜。そ、そっか〜。そこまで褒めるなんて、ななぴーはしょうがないヤツだな〜」
「なんかすごい今更な質問だけどな」
「ねね、ギャルはどうなの?ギャルは?」
「ギャルかぁ。ギャルのファッションって言っても幅広いよな。まぁでも、黄瀬のちょっとダボッとした感じとか外した感じとかはオシャレだなぁって思うわ。バチバチでギラギラしたギャルファッションよりはそんな感じのが俺は好みだな」
「……むふふ。ナナミン、なかなか褒め上手だねぇ。ギャル心ポイント10点あげちゃう!」
「おお、ついに俺もギャル心がわかってきたってことか」
「……光はもうちょっと、罪な男であることを自覚したほうがいいかもな」
「なんでだ。ただ聞かれたことに答えただけなんだけど?」
「いーや、ナナミンは罪な男だね!ウチが被害者筆頭でーす!」
「たしかに〜。ななぴーはそろそろ罰せられるべき〜」
「なんでこんなに集中砲火なの?」
「あはは、やっぱりナナミン弄りは楽しいからねー」
「まったく。ほどほどにしてくれよな」
「とか言って、嬉しそうな顔しちゃって〜。ななぴー素直じゃないな〜」
「いやいや、こんな話誰でも照れ臭くなるって」
「はは。じゃあみんなドリンク飲み終わったみたいだし、そろそろ行こうぜ」
柊斗がそう言って、俺たちはカフェを出る。
それからは黄瀬と白河の服選びに付き合ったり、ゲーセンで遊んだりして、買い出しの楽しい一日を過ごした。
◆◇
そしていよいよ修学旅行当日。
駅に直接集合し、クラスごとに整列。
クラス委員長の俺と赤羽が点呼を行いながら出席確認後、学年主任による全体挨拶。
そして新幹線に乗り込み、いよいよ修学旅行が始まった。
修学旅行自体は中学生の時にもあったが、高校生では3泊4日とちょっと長めのスケジュール。
一日の始まりからして全てがもう非日常で、これからやってくる楽しい4日感への期待でワクワクが半端ない。
新幹線の座席は同じグループの男子メンバーで固まっていて、行きの車内も大盛り上がり。
……と思っていたのだが。
「はぁ…………」
何やらオタクくんが明らかにテンション低めで、ため息まで吐いてしまっている。
「大丈夫か?酔ったりしたなら酔い止めあるから渡せるぞ」
「あぁ、すみません七海殿……そういうわけではないのですが……」
「アレだよ。オタクくんの好きなアニメの声優が不倫で降板したらしくてさ、そのニュース見て落ち込んでるんだってよ」
む……俺的にはちょっと触れ辛い話題だな。
「僕もあのアニメ見てたけど、あのキャラはあの声優じゃないとって感じだもんね」
「そうでござる!作品に罪は無いんだから、不倫みたいなプライベートなことで降板させないでほしいですぞ!」
「たしかになー。不倫ってテレビとかでめちゃくちゃ叩かれるけどさ、他人の家庭の事情とかマジどうでもいいんだよな。他にもっと大事なニュースあるだろって」
「不倫とか浮気なんて当事者の問題なんだし、そんなの知らされたとこでって感じだよね。聞かされてるこっちも気が滅入るし」
「……なるほどな、それでへこんでたわけか。まぁ気持ちもわかるけど、今は切り替えて楽しい修学旅行のこと考えようぜ。そしたら気も紛れるよ」
「……そうですな。いやはや、こんな時間に盛り下げて申し訳なかったでござる」
「全然いいって。……あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おう、行ってらー」
そして俺はその場を離れる。
……どうでもいい、か。
まぁそうだよな。
そう考えながら新幹線車内を移動していると。
「——あ、七海くん?」
ふいに声を掛けられ振り返ってみれば、緑川と青島の二人が並んで座っていた。
「おお、緑川に青島か。どうした?」
「あ、ええと、大丈夫かなって。なんか酔ったりしちゃった?」
「え?全然そんなことないぞ?」
「たしかに七海さん、なんだかいつもより元気なさそうに見えますね」
「そ、そうか?いや、全然大丈夫だよ。余計な心配かけちゃったみたいだな、すまん」
「そっか、ならよかったよ。気にし過ぎだったみたいだね」
「それなら七海さん、せっかくお会いできましたし、少しお話していきませんか?今は席も空いてますし」
「へ?あー……」
「あ、ああ、すみません……わたくしが誘っても、そうやって警戒されるのも当然ですよね……ただ今は冷静に自分と向き合えていますし、純粋にお友達としてお話したいんです。改めてお礼などもお伝えしたかったので」
「そ、そうか。それなら……」
そう言って俺は彼女たちの対面の空いていた席に座る。
「なんか二人が一緒にいるの新鮮な気がするな」
「ううん、実はそんなことないよ。わたしと水澪ちゃん同じクラスだし、普段はよく一緒にいるんだ。今回の修学旅行も同じグループだもんね」
「はい、特に最近は同じ目標があることがわかりましたから、それでよく話したりもしてますよ」
「へぇ。同じ目標って?」
「ええ、七海さんもそうだとお伺いしましたが、実はわたくしと葉月さんも東お——
「みみみ、水澪ちゃん!?それはできれば秘密にしてほしいなー!?」
——あら、そうでしたか?うふふ、それは失礼しました」
「とと、とにかくそんな感じで、わたしと水澪ちゃんは仲がいいんだよー」
「ふーん?そっか。……そういえば青島、あれから大丈夫だったか?」
「はい、おかげさまで。特に危ない目に遭うこともありませんし、七海さんがきっかけを与えてくださったおかげで、色々と考え直すことができました。生徒会長としての仕事もしっかりできていますし、両親ともお話する機会が多くなって、家庭でもうまくいっているように思います」
「そっか。それならよかったよ」
「あはは、あの頃の水澪ちゃん、なんだかすごかったもんね。七海くんに公開告白したかと思ったら、いつの間にか他校の彼氏作っちゃってて、かと思えばすぐお別れしてて。ビックリの連続だったよー」
「そ、そうですね……わたくしも色々と反省しております……」
「はは。たしかに色々あったけど、致命傷とまではいってない気もするし結果オーライで良かったんじゃないか」
「ええ、これも本当に七海さんのおかげです。ありがとうございます」
「そうだ、七海くんが暴漢から水澪ちゃんのこと守ったんでしょ?七海くんはやっぱりすごいねー」
「え?あー、俺はただ警察に通報しただけだし、大したことしてないよ」
「そんなことないよ!暴漢たちの前に自分の身を呈するなんて普通できないもの。でも七海くんは昔から困ってる人見かけたらすぐに手助けしてたから、わたしとしてはすごい納得感あるんだけどね」
「そうか?そんなことないと思うけど……」
「ううん。そういうのは全部わたし知ってるんだから。照れ隠しなんて効かないし、言い逃れはできないよー?」
「……まったく、幼馴染ってのはこういう時やりにくいな」
「そういえばお二人は幼馴染なんでしたね。わたくしにはそういった関係の方はいませんので、少し羨ましいです」
「まぁなんだかんだで付き合いは長いよな」
「えへへ、そうだね」
「それならわたくし、お二人の幼馴染エピソードなど伺ってみたいですね。いかがでしょう?」
「ま、まぁちょっとならいいぞ」
「わたし前にも楓ちゃんと柑奈ちゃんにすごい詰められたもんなぁ……」
「ふふ、そうですか。それなら遠慮なく……」
それから俺と緑川は青島に質問攻めにされた。
ちょっと答えにくいような質問に俺が言い淀んでいたら、緑川が顔真っ赤にしながらも答えちゃうんだよな。お風呂に一緒に入ってたとか素直に答えなくていいから。
青島も目をキラキラと輝かせながら止まる気配も無く。どうにも気恥ずかしくなって、キリがよくなったところでその場を離脱。緑川に全てを託すことにした。
元の自分の座席に戻ると、オタクくんもすっかり元気になっていて修学旅行を楽しめそうで一安心だ。
◆◇
やがて新幹線は京都駅に到着。
その後は金閣寺に向かうため、クラス毎に分かれてバスに乗車。
クラス全員がいることを確認して俺も自分のバスの座席に着く。
隣に座っているのは。
「——赤羽、お疲れ。この修学旅行は一緒になる時間が多そうだな、よろしく」
「ええ、アタシの方こそよろしくね」
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