第30話 チョロイン

 そして文化祭当日。


 初日は校内関係者のみの開催である。


 飾り付けされた校内、放送で垂れ流しのBGMなどなど、いつも慣れ親しんでいる学び舎がお祭りで彩られたこの雰囲気はたまらないよな。


 午前中はクラスの出し物である脱出ゲームのシフトに入る。


 といっても特に大変なことはなく、基本的には来場者の受付をして謎解き用のペーパーを渡したら終わり。あとは自由に謎解きをしてもらうだけだ。


 詰まったりしたらサポートするようなこともあるが、やっぱりこういうのはみんな自力で解きたいようなので、ほとんどお願いされることもない。


 なので当初の目論見どおり、ほとんどシフトの人数を必要とせず、スムーズに接客もできている。


 手ぶらで入場できるうえ、空き時間などにも入りやすく、もの珍しさもあり、思っていたよりも多くの人が来場してくれた。


 それでもずっと来場者が謎解きしている様子を眺めているだけだったので、脱出ゲームは現時点では成功と言っていいだろう。


 そうして午前中のシフトを終えたら、午後からはフリータイム。


 ヒマな男子たちと合流して校内を回っていく。なお柊斗は彼女さんと回るとのことらしい。


 まずは腹ごしらえということで、各々が好きなものを好きなだけ買って来て屋上で広げて、みんなで食べ始める。


「「「「「いただきまーす」」」」」


「うん、美味い。どれもいけるな」


「味は無難なんだけど雰囲気補正で何倍も美味しくなるよね」


「めっちゃわかる。カレーとかうちの母ちゃんが作ってるやつの方が美味いと思うけど、文化祭味って感じだよな」


「あ、でもちょっと焼きそばのソースの量にバラつきがあるでござる」


「はは、そういうのも文化祭ってことで全部許せる感じするよな」


「この後スイーツとかも食べたいねー」


「甘いものだと……クレープとかわたあめとかフルーツポンチがあるみたいだな」


「どれも美味しそうでござる……あっ!それならメイド喫茶行きましょうぞ!メイド喫茶!」


「「「たしかに!」」」


「超大事なやつ忘れかけてたね。2-2は絶対行かなきゃ」


「ああ、緑川と青島のクラスか」


「そうそう!あの二人のメイド姿とか絶対ヤバいだろ!決めた奴グッジョブだわ!」


「七海くん、その二人っていつシフトに入ってるか知ってる?」


「いや、なんでそれを俺に聞くんだよ」


「七海殿は可愛い女子のことは何でも知ってるでござるからな」


「そんなわけねーだろ。俺を何だと思ってるんだよ」


「ちぇっ。じゃあその二人が午後いるかわからんってことか。まぁとりあえず行ってみて——」


「——緑川は手芸部のミスコン衣装作業がまだあるっぽいから今日は多分いないぞ。あと青島は今日の午前中が実行委員のシフトで、明日は一日中埋まってるから、もしかしたら今日の午後はクラスの方にいるかもな」


「「「「やっぱ知ってんじゃねーか!!」」」」


「はは。その二人はミスコンの手伝いとかで関わってたから、たまたま知ってただけだよ」


「それでも、そんなポンッと情報出されたらこっちもビビるわ!」


「しかし緑川さんいないんだね。残念だなー」


「でもたしかに、赤羽さんも手芸部の作業でシフト入れてないから、よく考えればそうか。手芸部は文化祭時期ヤバいらしいからな」


「三年生が引退する時期も悪いですな。進学校だし受験優先なのは仕方ないでござるが」


「うちのクラス来ても赤羽さん会えないから、赤羽さんファンには悲報なんだよね……」


「じゃあ青島さんいるならメイド喫茶は確定として、あと他にどこか行きたいとことかある?」


「あ!それなら僕、2-4のお化け屋敷行きたい!」


「白河さん目当てな」


「そうだよ」


「欲望に忠実過ぎますぞ」


「でも白河さんって吸血鬼のコスプレしてるんだろ?たしかにそれは見たいわ」


「白河殿の雰囲気にも似合ってそうでござるな」


「白河さんってさ、なんかすごいミステリアスな雰囲気とか魅力があるよね。地雷系ファッションってのもあるんだろうけど」


「たしかに、自分をあんまり出さないって感じするよな」


「そういえば中学が白河さんと一緒だった友達いるけど、彼女中二の途中とかで遠くから転校してきたって聞いたよ」


「へー。口調のせいかもしれんが方言とか出てる感じでもないし、それは知らんかったな」


「白河殿は部活にも入ってないし、多分そういう部分があのミステリアス感に繋がってるんでござろうな」


「じゃあメイド喫茶の後はお化け屋敷で決定だね」


「よし、じゃあ飯食い終わったしそろそろ行こうぜ。メイド喫茶もお化け屋敷も早めに行っといた方がいいかもしれんぞ」


「たしかにな。おれらみたいな青島さんと白河さん目当ての客で混んでるかもしれんし行くか」




 ◆◇




 そうして俺たちはまずメイド喫茶をやっている2-2へ向かった。


 ……が。


「——うおっ!?なんだあの行列!?」


「あのクラスだけとんでもないことになってるね……」


「きっとみんな青島殿目当てでござるな……あれは入るまでにどれくらいかかるかわからんですぞ…」


「どうする?先にお化け屋敷優先してもいいけど」


「でもいつこの列が無くなるかわからないし、むしろ先に並んどいたほうがよさそうじゃない?青島さんのメイド姿なんてこれ逃したらもう見れないよね」


「仕方ない、並ぶかぁ」


 というわけでメイド喫茶のとんでもない行列に並ぶ。


 かなり待つかと思ったが、席の時間制限を設けているようで、意外とスムーズに列は進んだ。


 そして。



「——お帰りなさいませ、ご主人様」



 入店した俺たちを出迎えてくれたのは、誰でもないメイド姿の青島だった。


 ……なるほど、これはたしかにとんでもない破壊力だ。


 元々ではあるが表情が少し硬く、メイド服も市販の衣装をアレンジしたもののようで多少のチープさは見て取れるものの、それらを差し置いても着ている本人の素材が良すぎる。


 その表情をあまり崩さないクールな青島がファンシーでフリフリの可愛らしいメイド服を着ているのもギャップが際立っていて、普段の彼女からは考えられなかった親しみやすさや柔らかさが生まれていた。


 彼女がいる周辺だけ光り輝いているような気さえする。


 一緒に来ていた他のヤツらはなんか言葉失って瞬きすらしないくらい固まっちゃってるしな。


「おう、青島。メイド服似合ってるよ」


「あら、七海さんでしたか。ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです。こういった衣装は初めてなので、なかなか落ち着かないのですが……」


「たしかに青島がそういう服着てるイメージは無いけど、こうして実際に見てみるとめっちゃ良いと思うぞ」


「ふふ、そう言ってもらえると少し自信が出ました。あ、皆さんもこんにちは……じゃないですね。お帰りなさいませ、今ご案内します」


「「「「「ハハハ、ハイィッ…………」」」」」


 青島に話しかけられ、途端に挙動不審になる男たち。


 普段ならツッコミを入れたくなるところだが、この時ばかりはコイツらの気持ちもわかってしまうな。


 そうして席へと案内された後は、別のメイド女子が接客してくれた。


 青島は入口付近で入場客のお出迎えに徹しているらしく、このクラスの奴らが自分たちの武器の使い方をよく理解しているようだ。


「いやー、想像以上だったね……」


「長い事並んだ甲斐があったなぁ……」


「オタクくんが前すれ違うとき呼吸できなくなるって言ってたけど、今日その気持ちがわかったよ」


「拙者、しばらく心臓止まってましたぞ」


「よく生き返れたな」


「ねぇねぇバスリエくん……青島さん、どう……?」


「…………D」


「「「おおっ、さすが!」」」


「『さすが』じゃないんだよ。それキモいから止めろ」


「七海、あとは頼んだ」


「しかも結局それかよ」


「そういえば青島さんってミスコン出るんだよね?」


「ああ、出るらしいぞ」


「なんか意外だよね。ああいう俗っぽいの嫌いなのかと思ってた」


「てかミスコンと言えば、黄瀬さんと橙山さんも出るんだよな。手芸部が衣装作ってるらしいし、楽しみだぜ」


「単純なパッと見のルックスだけなら青島さんが勝ちそうだけど、その二人なら全然食いつけそうかも」


「たしかに黄瀬さんも橙山さんも青島さんも全員が別系統だし、審査項目次第では誰でもあり得るよね」


「橙山ちゃんに勝ってほしいでござる……」


「七海、どんな審査するかとかってもうわかってるのか?」


「わかってるけど、さすがにまだ秘密だよ。ネタバレしちゃったら面白くないからな」


「まぁそうだよなー。本番まで楽しみにしとくか」


 そうやって喋りながらドリンクを飲んでいたら席の制限時間がやってきたので、メイド喫茶を後にする。


 それからは白河のクラスのお化け屋敷に行って彼女のコスプレ姿に男子たちがやっぱり挙動不審になったり、演劇やバンドを見に行ったり、友人たちと文化祭を目一杯楽しんだ。




 ◆◇




 そして文化祭二日目。


 本日は外部からもお客さんが来るということで、俺は文化祭実行委員として一日中お仕事の予定である。


 例年通りではあるが、かなり多くのお客さんが来場し、その受付をしたり、校内の見回りをしたりと大忙しだった。


 そしてなんとか自分の業務をこなし、いよいよステージの大トリであるミスコンの準備。


 体育館ステージの裏で簡易更衣室を作り、そこで赤羽や緑川を含めた手芸部の協力のもと、ミスコン出場者の着替えを行う。


 そして裏方の俺は舞台セットや照明などの準備を進めているところだ。


「——ねぇ七海、ちょっといい?」


 そこに、赤羽から声を掛けられた。


「ん?どうした?」


「こっちの方で水澪見なかった?」


「え?青島?いや、見てないけど……どうかしたのか?」


「さっき着替える前にトイレ行ってくるって言ってたんだけど、それからしばらく姿見てないのよ。もうちょっとで時間なんだけど……」


「え、マジか。誰か探しに行ったりしてるのか?」


「いや、まだだと思う。ついさっき気付いたばっかりだし、アタシも忙しくて手離せないから……」


「わかった、それじゃあ俺ちょっと探してくるよ。見つけたらすぐ連絡するわ」


「うん、ありがとう。よろしくね」


 そうして俺は青島を探しに行くことに。


 女子トイレはそれほど離れてないし、見知った校内で迷子になるとも思えないので、何かしらのトラブルに巻き込まれてしまっているのかもしれない。


 まず青島が向かったであろうトイレに向かったが、それらしい人はおらず、その周辺を中心に探す。


 すると、廊下を抜けた先にある体育館裏の方から、男女の声が聞こえてきた。


 そちらは文化祭の出し物などはないエリアなので、本来人がいないはず。


 気になったのでそちらに向かうと。


「——うわ、マジで可愛いな」


「うちの大学でも見たことないレベルだわ」


「ねぇねぇ、いいじゃん。連絡先交換するだけっしょ?」


「す、すみません、困ります……」


 青島が私服で若めの男たち三人組に囲まれてしまっていた。


 会話の内容を聞く限り、相手はどこかの大学生グループのようである。


「アイドルとか余裕でできそうじゃん。そーゆーの興味ないの?」


「い、いえ……その……」


「ねぇねぇ志望校どこ?うちの大学とかどう?」


「ほ、ホントにやめてください……わたくし急いでますので……」


「えー?急いでるなら尚更、早く連絡先交換しちゃおうよ?その方がお互いのためっしょ」


「てかさ、ちょっと冷たくない?おれら、遠いところからわざわざ来てるんだしさ。ちょっとくらいおもてなしの心が欲しいなー?」


「う、うぅ……」


 かなりダル絡みされてしまっていて、しかも壁を背に囲まれてしまっており、逃げることもできない状態になっている。


 青島は恐怖でプルプルと震えてしまっているようで、大きな声を上げたりもできそうにない。


 普段の彼女のイメージでは寄ってくる男をバシッと拒絶できると思っていたのだが、意外にもこういうシチュエーションは慣れていないのかもしれない。


 これはマズい、というのはすぐ判断できたので、その場で行動を起こす。


「——先生っ!いましたよー!こっち、こっちでーす!!」


 俺の姿を見せながら、できるだけ大声で叫ぶ。


「やっべ!」

「逃げろ逃げろ!」


 そうやって大学生三人組は走り去って行った。


 もちろん先生などいないのだが、やっぱこれが一番効果的だよな。


「青島、大丈夫だったか?」


「な、七海、さん……」


 見知った顔を見て安心したのか、青島はペシャリとその場にへたり込んだ。


「こ、怖かった……怖かったです……」


「ああ、見つけられて良かったよ。男たちの服装とか髪型とか覚えたし、後で先生に報告するのも考えようか」


「先生、は、来てないんですか……?」


「ん?ああ、さっきのなら咄嗟についた嘘だよ。大人がいるってアピールしないと、俺だけじゃ舐められる可能性あったから」


「そ、そうですか……本当に助かりました、ありがとうございます……」


「いえいえ、どういたしまして。——それで、怖い目に遭ってたばかりのところでメチャクチャ申し訳ないんだけど、ミスコンの時間が迫ってるみたいなんだよ。戻れそう……って聞くのもアレだな。ちょっと落ち着こっか」


「…………はい、すみません、足に力が入らなくて……ちょっとだけお時間ください……」


「ああ、わかった。でもとりあえずみんな待ってるっぽいから、青島見つけたってのだけは連絡させてくれ。——もしもし赤羽?うん、青島いたよ。ただちょっとトラブっちゃっててさ……いや、無事無事、今は体育館裏。……え?あー……じゃあなんとか時間稼いでくれる?ホントすまん、後で説明するから。……うん、ありがとう。じゃあ」


 そう言って赤羽との通話を切る。


 通話中、青島が顔を赤らめながらポーッとこちらをずっと見ていたのは気になったが、恐い男たちに囲まれた後だし、ちょっとした興奮状態になっているのかもしれない。


「今赤羽に連絡したから、もうしばらくは大丈夫だと思う。とりあえずナンパされてたってのは伏せといたから、誰にどこまで説明するかってのは任せるよ」


「はい……何から何まですみません……」


「あんな怖い目に遭ったらそりゃあな。ていうか、こんなことあった後だし、ミスコン辞退もアリじゃないか?どうしてもってほどじゃなければ……」


「……いえ、わたくし戻ります。もうそろそろ落ち着いてきましたし、大丈夫です」


「ん、そうか?それならいいけど……無理はするなよ?」


「はい、ありがとうございます。無理はしておりませんよ。——それにちょっと、ミスコンで勝たなくてはいけない理由ができてしまったので」


「……?そっか、大丈夫そうなら行こうか」


「はい!」


 気になる言葉はあったが、本人の言葉を信じて急いで体育館裏の控室に戻る。


 その際ステージに目をやると、すでに一人目のミスコン出場者である黄瀬がステージに入場しているところで、かなりギリギリの時間になっているようだ。


 そして控室に入るやいなや、


「水澪ちゃん!大丈夫!?」


 緑川が青島に駆け寄る。


「はい、大丈夫です。ご迷惑おかけしました。お時間ないようですし、準備お願いします」


「うん、なら良かった!じゃあこっち来て着替えよ!」


 そう言って緑川が青島の手を引き、急ぎ簡易更衣室へと入っていく。


 赤羽もその後を追い、全員掛かりで青島の着替えを手伝う。


 しかしステージ上では、たった今四人目の橙山が呼び出されてしまった。


 ……入場順のテンポ的には、もう次の呼び出しには青島は間に合わない。


 俺は舞台袖からジェスチャーで司会の男子にもう少し時間がかかるよう伝える。


 それがなんとか伝わったようで、アドリブで文化祭の振り返りなどをしてくれている。


 ここではもう俺にできることはもうないので、ただ彼女を待つばかり。


 司会者のアドリブもだんだんと苦しくなってくるのがわかる。


 まだか、まだかと、気持ちが逸る。




「——お待たせしました」


 そう横から聞こえたかと思えば、青島が俺の側を颯爽と横切って、ステージ上に向かう。


 司会者がステージ脇に現れた青島に気付く。


「——というわけでして、えー…………あ!それでは最後の出場者の準、び……が…………」


 彼はそう言いながら固まってしまい、入場のコールが途絶える。会場もその異変に気付いてざわつく。


 コールが始まらないと判断した青島は、そのままステージへと歩き始めた。


 コツ、コツと一歩ずつ、堂々と、優雅に。


 彼女がステージ中央に近づいていく毎に、会場のざわめきが収まっていく。


 見惚れる者。

 息を呑む者。


 人は、本当に美しいものを見たら、何も考えられなくなることをこの瞬間思い知った。


 そして、華麗なブルーのドレスを身に纏った彼女がマイクを持つ。


「——エントリーNo5番、青島水澪です。よろしくお願い致します」


 静寂の湖に一滴の雫が落とされたように、会場が揺れ、ワッと波打った。




 ◆◇




 もはや結果は、誰もが分かりきっていただろう。


「——今年のミスコン優勝者は、青島水澪さんでーす!!」


 最初の勢いのまま、青島がミスグランプリの座に輝いた。


「いやー、さすがにウチも完敗だわー……アレはズルいでしょー」


「むー、悔しいです……でも納得しちゃってるボクがいます……」


 黄瀬や橙山は明るさや愛嬌などという点で言えば客観的に見ても青島よりも上だし、実際二人はかなり食らいついていた。


 しかしそんな彼女たちも、入場時の青島の雰囲気に完全に飲まれてしまっており、アピールタイムで本来の実力を発揮できないでいたように思う。


 とはいえ一回限りのステージでは運も実力の内。遅れてきたという演出さえも自分のものにした、青島の実力とも言えるのかも知れない。


「それでは、優勝者インタビューに参りたいと思います!青島水澪さん、お願いしまーす!」


 そして青島がマイクを受け取り、キンとしたハウリングの音を合図に、会場が静まり返る。


「——ただいまご紹介にあずかりました、青島水澪です。この度は、このような名誉な賞をいただき、ありがとうございます」


 インタビューに答える青島は緊張した様子などもなく、むしろいつもよりどこか表情や雰囲気が柔らかくなっているように見える。


「入場に遅れてしまい申し訳ありませんでした。しかし、少し怖い思いをするようなトラブルに巻き込まれてしまっており、止むを得ない事情があったのです」


 少し穏やかではない言葉が飛び出て観衆が少しざわつくも、「ですが」と彼女がそれを制する。


「その際、自己の危険も顧みず、わたくしのことを助けてくれた方がいました。その方に感謝しているのはもちろんなのですが、それだけでなく、その方はわたくしが新しい感情を知るきっかけをくれました」


 ……なんか話がよくわからない方向に行ってるが、どこに着地するんだろうか。


「わたくしはこれまで、自分のことを空っぽな人間だと思っていました。でも、そうではないことを、その方は教えてくれたのです」


 会場もまたざわめき始めている。


「だから今この胸の中にある、間違いないこの気持ちを今、その方に伝えようと思います」


 そう言った青島が、舞台脇にいる俺の方に向けて体ごと振り向いたかと思えば。









「——七海光さん。わたくしは、あなたのことが好きになってしまったみたいです」






 …………











 え?


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