第18話 BSS

 そしてその週末の土曜日、緑川との勉強会当日だ。


 緑川を迎えに行くついでに、菜月さんにタッパーを返すために緑川家に訪問。


 こうやってこの家に来るのも久しぶりだな。


 ちょっとセンチな気分に浸りながらインターホンを押す。


「はーい、ちょっと待っててね」


 インターホン越しに菜月さんがそう応え、そのまま玄関から顔を出してくれた。


「菜月さん、おはようございます。これ、この前いただいたおかずのタッパーです。ありがとうございました」


「光くん、おはよう。わざわざありがとうね。お口に合ったかしら?」


「はい、美味しかったです。緑川家の筑前煮は昔から好きでしたから、久しぶりに食べられて懐かしくなりました。父もすごく喜んでましたよ」


「そう、それなら良かったわ。雪也くんにも今度挨拶しなきゃね」


「あ、父もそれ言ってたんで、ぜひ」


「えぇ、そうね。——あ、今日葉月ちゃんとお出かけするのよね?あの子もうすぐ出てくるから、ちょっとだけ待っててね」


「はい、わかりました」


「この前も言ったけど、本当にありがとうね?わざわざ休日にまで。しかもあの子、今日光くんとお出かけするからって張り切っちゃってて——」


「——ちょ、ちょっとお母さん!余計なこと言わないで!」


 そう言いながら、緑川がバタバタと慌ただしい様子で玄関から出てきた。


「うふふ、これは失礼。じゃ二人とも、気を付けて行ってらっしゃい」


「うん、行ってくるねー」


「はい、行ってきます」


 二人で菜月さんに出発の挨拶をして、駅に向かって歩みを進める。


 今日の緑川は清楚でガーリーな服装ながら靴はスニーカーという、買い物での歩きやすさも重視した格好。


 メンズの服ならそれぞれのアイテムの名前がなんとなくわかるんだけど、レディースの服に関しては全くわかんないんだよな。恋人でもいなければ学ぶ機会なんて全く無いし。


 緑川は中学生になってからオシャレに目覚めたようだったが、ここ最近は更に磨きがかかっているようだ。


 黄瀬や白河みたいな派手な系統とは異なり、大人しめながらもそれぞれのアイテムをこだわって選んでいることが分かるような、万人受けするタイプ。以前から男子たちの人気は高かったし、それも頷ける。


「七海くん、今日はありがとうね」


「はは、お礼言うのが早いよ。俺も今日は買い物付き合ってもらうんだし。着いたらどうする?ちょっと早いけど、昼飯とか食うか?」


「そうだね。わたしまだ食べてないから、まずはお昼ごはんにして、それから午後はお勉強に集中しよっか」


「オッケー。何か食べたいものとかあるか?」


「んー、今日の気分はパスタ!イタリアンかなー。トマト系が食べたいー」


「『今日は』って、こういうとき緑川って昔からいつもパスタばっかり選んでなかったっけ?」


「えへへ、だって好きなんだもん。それにうち和食が多いから、こういうときは洋食が食べたくなるんだよね」


「そっか、じゃあいつも行ってたあのチェーンのパスタ屋さんでいいか?」


「うん!」


「あと今日どっか行きたいところとかある?時間はあるし、ちょっとくらいなら寄ってもいいけど」


「わたしは特にないかな。それよりもテスト勉強の方が気になっちゃうから、ゆっくり見れないと思う……」


「それもそうだな。じゃあ飯食べたら本屋さんで問題集見て、それから図書館で勉強ってコースで行こう」


「はーい」


 つい先日は二人きりになると気まずくなっていたのだが、今はもうそんな空気は感じさせない。


 2年間という空白は、長くもあるが短くもある。


 そのくらいクラスが別れて疎遠になるってことは全然あり得るし、調子を戻すにはそれほど大したことない時間だろう。


 以前に比べてしまえば多少はぎこちなさも残ってはいるが、これも高校生になった彼女との新しい付き合い方と思えばいいのかもしれない。


 そうやって電車の中で会話していると、目的の駅に到着。いつものショッピングモールへ。


 まずは先ほど話した通り、二人でよく行っていたパスタ屋さんに入店。


 俺はきのこクリームパスタ大盛り、緑川はナスとベーコンのトマトパスタ大盛りにフォカッチャ、デザートを注文。


 緑川って意外と量食べるんだよな。それでもこんなに痩せてるのは不思議なもんだ。それを口に出すとご時世的にもうるさいので黙っておくが。


 モグモグと美味しそうに口いっぱい頬張る緑川の姿を見ると、昔を思い出してこちらも頬が緩んでしまう。


 二人とも満足いくまで食べてお会計したら、目的の書店へ。


「七海くん、今日は何買いに来たんだっけ?」


「問題集が足りなくなったから、それを買いに。本当は一通り買いたいんだけど、荷物になるから集中したい教科だけでも買っておこうかなーって」


「そっか、七海くんは問題をバリバリ解いてるって言ってたもんね。わたしも何か買おうかなー、おすすめとかある?」


「んー、問題集もいいけど、緑川の場合は基礎がまだ足りてない感じするから、問題集よりも分かりやすい参考書とか単語帳とかを優先したほうがいいかもしれないな」


「うっ……やっぱりバレてるよね……」


「まぁ参考書とかも学校で配られるぶんでも十分だったりするんだけどな。でも人によっては、自分に合う参考書を見つけた途端に成績が上がるってこともあるし、一回他の参考書を眺めてみるのもアリだぞ」


「へー、そうなんだ。じゃあいろいろ見てみよっか」


「そうだな……あ、これとかおすすめ。古文の単語帳なんだけど」


「え?これ?なんかコミカルな表紙だし、変な名前だね……」


「ああ、ゴロで覚えられる単語帳だな」


「ゴロで?それって七海くんが前勉強会で言ってた丸暗記ってことなんじゃ?」


「まぁそうなんだけどな。でも古文漢文に関しては例外で、丸暗記がかなり有効な教科だと俺は思ってる。ってのも、全体像とか知識の紐づけをするには労力がかかりすぎるし、それで得られる対費用効果も薄いんだよ。逆にゴロで単語さえ覚えちゃったらそれだけでも意外と点が取れる教科なんだよ」


「あー、たしかに。そもそも単語がわからなくて文章が読めない、ってのがキツいんだよね……」


「そうそう。文法が曖昧でも単語さえ分かっておけばある程度文章の意味が読み取れるようになるし、共通テストみたいな選択問題方式ならゴリ押しでいけることもあるからな。だからこの単語帳買って読んだだけで点数跳ね上がったってヤツも知ってるし」


「たしかに、今パラパラと読んだだけでも覚えやすそうなゴロばっかりだね」


「だろ。ギャグっぽくて笑えるやつも多いし、インパクトあるから余計記憶に残るよな。俺も持ってるから貸せればいいんだけど、普段から使ってるからなぁ」


「ああ、いいよそんなの。うん、これ買ってみよっかな」


「気に入ってもらえたみたいでよかったよ。……そういえば、緑川って志望校とかってもう決めてる?」


「え?い、いや……まだ決められてないかな」


「そっか。まぁまだ二年生の一学期だし、これからゆっくり決めてもいいよな」


「七海くんはどこかもう決めてるの?」


「あぁ、一応俺は東王大学を目指してるよ」


「えっ!?東王!?……そっか、常陽のトップレベルになると、日本一の大学も目指せるんだね……」


「いやー、正直まだまだ厳しいかな。だから俺ももっと頑張らないとだ」


「それでも、やっぱり七海くんはすごいよ……あの、東王を目指してる理由ってあるの?」


「そうだなー、やっぱり一番の大学目指してるほうが頑張れる気がするし、入った後もネームバリューが大きそうだし。まずは一番を目指してみようっていう軽い気持ちではあるかな」


「……そっか。わたしも見習って頑張らなきゃ」


「おう、まずは目の前の期末テストからだな」


 そんな会話を交えながら参考書や問題集を眺めて、それぞれ数冊ほど気に入ったものを購入して、本屋を後にした。




 ◆◇




 それから俺達は図書館へ。


 休日ということで少し混んでいたが、幸いにも軽く談笑しながら勉強できるスペースが空いていた。


 それからは二人でガッツリ勉強する態勢へ。


 緑川は平日の間に自分でも勉強してくれていたようで、以前よりも理解度が進んでいる様子が見られた。


 とはいえ彼女の場合は基礎力が足りていないので、油断せずにしっかり教えていく。


 数時間ほど勉強していたところで二人とも少し集中力が切れてきたので、図書館の休憩スペースへ。


 自動販売機で飲み物を買って、談笑しながらゆっくり過ごす。


 ある程度リフレッシュできたところで学習スペースに戻ろうとしたら。


「——あれ?七海クンじゃないか」


 聞き覚えがある凛とした声に驚きながら振り向くと、私服姿の藍沢先輩が立っていた。


 今日の彼女は落ち着いた色合いのトップスにパンツスタイルという、いかにもできる女性ですといった服装で、藍沢先輩のキャラクターに合っている。


 先日学校で会ったときには誰が見てもわかるくらい落ち込んでいた彼女だったが、今日はいつも通りビシッと決まっていて、心なしか彼女のトレードマークであるポニーテールもピョコピョコと跳ねているようでさえあった。


「え、藍沢先輩?こんなところで奇遇ですね」


「ああ、ここはよく私も勉強のために使っていてな。七海クンも勉強かな?」


「はい、そうです。緑川と一緒に勉強していたところでした」


「お、そうか。そちらが緑川葉月クンだね」


「は、はい。先輩、初めまして」


「あはは、そんなに固くならなくていいよ。女子からは瑠璃って呼ばれてるから、ぜひそう呼んでほしい」


「わかりました、瑠璃先輩。よろしくお願いします」


「うん、よろしく葉月クン。……それで、休日に二人きりで勉強会ということは、君たちはお付き合いを始めたのかな?」


「ああ、いえ。緑川は昔から付き合いがある幼馴染で、彼女が勉強に困ってたようなんで、俺が教えてるとこでした。なので俺たちは付き合ってるわけじゃないですよ」


「そうか、それなら良かった。——そういえば七海クン、改めてだけど、この前は本当にありがとうな」


「いえいえ、とんでもないです。あれから大丈夫ですか?」


「ああ、おかげさまで。ちょっとは気まずい空気も残ってるけど、君のアドバイス通り私自身が堂々とするようになったらそれも減ってきてな。今はだいぶ過ごしやすくなったよ」


「そうですか、それは良かったです」


「……こ、この前って?何かあったの?」


「あー……いや、ちょっとな」


「あぁ、私が七海クンに二人きりで、じっくり・たっぷり・優し〜く慰めてもらったって話だよ」


「……え、えっ!?」


「あ、藍沢先輩!?ちょっと言い方に悪意ございませんかね!?」


「ははっ、まぁこんな冗談も言えるくらい元気になったってことさ。それに、ほとんど事実だしね?」


「……い、いや、相談に乗ったことは事実ですけどね……」


「ああ、そうだね。ところで七海クン、こんな休日にたまたま出会えるなんて、私たちはとても運命的だと思わないかい?」


「へ?ま、まぁ……すごい偶然ではありますよね」


「そうだろうそうだろう。それで、私もあれから色々と考えてみたんだよ」


「……と、言いますと?」


「あの時、君は私に全身全霊の恋を頑張ってみたらどうか、と言ってくれたよね?」


「あ、ああ。言いましたけど……あれはどっちかって言うと冗談みたいなもので……」


「いや、私も考え直してみたんだけどね、かなり効果的な方法だと思ったんだ。さっきも言った通り、まだ気まずい空気は残ってるから、できればそれも払拭していきたい。だから私はこれから全身全霊、態度で恋心を示していこうかと思ったんだ。ね?七海クン」


「……は、はい、いいと思います。俺も応援してますよ」


「ふふ、分かってて言ってるのかな?」


「……い、いや……」


「え?え?」





「——そう、私は七海クンのことを本気に好きになってしまったみたいなんだよ」





「……!?」


「あ、あの……すみません、偽彼氏の話なら以前にお断りした通りでして……」


「ああ、そうやって思われてしまうのも仕方ないよね。あんなことをお願いしてしまったのだから。でも今の言葉は本当で、私を君の彼女にしてほしいと思ってる」


「ま、マジですか……」


「ああ、マジだ。というか、あんな弱ってるところにあんなに優しくされて、好きにならないわけがないだろう?」


「……そう、なんですかね?すみません、俺はちょっと好きとか恋愛とか分からなくて……」


「そうか、それならそれで構わないんだが……一応お返事を聞かせてもらえないだろうか?」


「……はい。藍沢先輩の気持ちは嬉しいです。でもさっき言った通り俺は恋愛ってのが分からなくて、この状態でお付き合いするのも藍沢先輩に失礼だろうし、俺は今彼女を作るつもりがないので……ごめんなさい」


「うん、こんな急で不躾な告白に対して、真摯に応えてくれてありがとう。そうやって言われるだろうってのは分かってたから、それだけでも嬉しいよ」


「え?そうなんですか?」


「だってこの前、偽彼氏を頼む前に私が『恋人になってほしい』と言った時、そんな口ぶりだったからね。ただ私の気持ちをちゃんと伝えておきたかったんだ。だから聞いてくれてありがとう」


「……そうですか、すみません」


「ああ、そんなに何度も謝らないでおくれ。君は全然悪くない。私が全身全霊の恋を楽しみたいという、本当にただの私のわがままなんだから」


「……はい、そう言ってもらえると助かります」


「うん。この気持ちに気付くのが遅すぎたよ。それだったらあんなことにもなってなかっただろうね……」


「……」


「それに私は来年卒業するから、君と一緒にいられるチャンスは少ない。だから早めに気持ちを伝えておきたかったんだ。それでこんな突拍子もないタイミングになってしまって、本当にすまない。……だけど」


「だけど?」


「たしか、君の志望大学は東王大学だったね?」


「え?そうですけど……ご存知だったんですか?」


「はは、前にも言ったけど、生徒会長という立場上色んな情報は入ってくるからね。それに恋愛は戦いなんだから、敵情視察はもちろんしておくものだよ。そして実は、私の志望大学も東王大学なんだ」


「え?そうなんですか?」


「ああ。……私がやらかしてしまったことは君からの信頼を大きく損ねてしまっただろうと思う。だけど、大学生になっても君と一緒にいられるなら、その信頼を取り戻せる時間もあるかと思ってね」


「……な、なるほど」


「だから大学以降の時間のことも含めて、私の気持ちを頭の片隅にでも置いといてもらえたらと思っていたんだ。もちろん、迷惑になるようなことはあってはならないから、無理にとは言わないよ」


「……わかりました。でも多分、俺の気持ちは変わらないと思います。なので申し訳ないんですが、あまり期待はしないでもらえると嬉しいです」


「もちろんその覚悟もしてるよ。恋愛なんてそういうものだろうからね。それじゃ、忙しいところお邪魔したね、二人とも。また学校で会おう」


「あ、はい。また」


 藍沢先輩はそう言って、自分の勉強スペースであろう方向へ歩いて行った。


 途中から隣でずっと黙っていた緑川をチラリと見たところ、どうもかなり思い詰めたような表情をしていた。


「緑川?どうかしたか?」


「……」


「……緑川?」


「……へっ!?あ、ごめん、ちょっと考え事しちゃってた……」


「そうか。ま、まぁ俺もちょっと衝撃だったというか、混乱してるというか」


「う、うん……すごかったね。わたしもいるのに、あんなストレートに告白するなんて……こんなの初めて見たよ」


「そうだな……まぁでも俺が断って終わりっていう話だから。今はテスト勉強優先だし、切り替えていこうぜ」


「うん、そうだね」


 そして二人で勉強スペースに戻って、勉強再開。


 しかし藍沢先輩の突然の告白は俺たちにとってやはり衝撃だったようで、二人とも休憩前のような集中力は維持できなかった。


 特に緑川は時折ボーッとしたような表情を見せていて、なかなか身が入っていないようだった。


 そこをなんとかお互いに喝を入れながら、予定していた範囲までを無事終了。


 帰り道は行きに比べて会話もぎこちなく、少し気まずい空気に戻ってしまっていた。




 ◆◇




 それからしらばく経過して、期末テスト最終日。


 最後の教科のチャイムが鳴り、先生の「そこまでー」という合図とともに、クラス中からドッと安堵のため息が漏れる。


 この瞬間の開放感は何度味わってもたまんないよな。


 周囲の奴らでテストの感触をワーキャーと話していたら、担任がクラスへ入ってきてHR開始、伝達事項を口頭で伝え出す。


 と、その時、ポケットの中のスマホがバイブで揺れたのを感じた。


 ロック画面で着信の内容をそっと確認してみると、緑川からのメッセージ。


『今日、大事な話がしたいです。よければこの後の放課後、二人きりになれる場所で学校に残ってもらえませんか?』


 ……大事な話?テストのことだろうか。


 まぁ特に用も無かったので、了承の旨をメッセージで返信。


 そして帰りの挨拶を終えて、席を立とうとしたところ。


「なあ光、この後クラスの奴らでボウリング行くけど、お前も行く?」


 そうやって柊斗に話しかけられた。


 今日までは部活動が休みで、かつテスト終わりで午後授業がないので、部活に入ってる奴らも全員がガッツリと遊べるチャンスの日だ。


 正直行きたい気持ちはあったが、約束したばかりだし今はさすがに緑川が優先。


「すまん、ちょっとこの後約束があるんだわ。どのくらいかかるかわかんないんだけど、後から行けそうなら行くよ」


「おお、そっか。じゃあ来れそうならまた連絡してくれ」


「ああ、わかった」


 そう言って、緑川との待ち合わせ場所へ。


 校舎裏の隠れた一角という、人目につかない場所で合うことに。


 そこにはすでに緑川の姿があった。


「おう、緑川お待たせ」


「あ、七海くん。来てくれてありがとう」


「ん、テスト終わったばっかりだし時間あったから全然いいよ。それで、大事な話って?テストのこと?」


「ううん、テストのことじゃなくて——あ、でもテストはかなり手応えあったよ。七海くんが教えてくれたところがいっぱい出てきてビックリしちゃった」


「そっか、それは良かったよ」


「うん、ありがとう。……あ、それでね、話したいことなんだけど……」


「ああ」


「……」


「……」


 続きを待つが、なかなか出てこない。


 緑川は言葉を出そうとして、躊躇って。


 その度にスーハーと呼吸を整えている。これは緑川が緊張している時の癖だ。


「……あの、さ。七海くん、あの時のこと、まだ覚えてる……?」


「ん?あの時って?」


「うん、あの……中学二年生の最後の春休み、わたしが言ったこと……」


「ああ、あれか。……うん、覚えてるよ」


 一言一句違わず、な。


「そ、そっか。そうだよね……その、あの時は、本当にごめんなさい。身勝手なこと言っちゃって」


「いやいや、全然いいよ。別に緑川は何も悪いことしてないし、自然なことだとも思うしな。もしかして、今日の用事ってそれだった?」


「……ううん、今日の本題は違くてね……」


「あ、そうなのか」


「うん。……七海くん、あのね……」


「……」







「——わたし本当は、七海くん……ひーくんのことが、ずっと好きだったの!だからわたしを、ひーくんの恋人にしてもらえませんか!?」







 ……そっか。


 俺のことがずっと好きだった、か。


 緑川の様子を今一度一瞥してみたが、今の彼女の言葉は嘘じゃないようだった。







『……他に、好きな人ができちゃったの。だからひーくんとは、これまでのように一緒にはいられない。ごめんなさい』







 ああ、俺も、お前のことがずっと好きだったよ。







 幼馴染として、家族として。


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