期末テスト 編
第15話 期末テスト
一学期もそろそろ終盤。
もうすぐ夏休みも見えてきたというところだが、俺達に大きな現実が立ちはだかる。
——期末テストだ。
学生たちを最も苦しめる存在だと言っても過言ではないだろう。
すでに一学期の中間テストは終えているのだが、期末テストの指定範囲はその比ではない。
二年生になって勉強の難易度も跳ね上がり、みんな悲鳴を上げているところだ。
まぁ俺の場合は普段から勉強しているし、今回の範囲もすでにしっかり理解できているつもりだから、それほど焦っていない。
が。
「光様ー!助けてくれー!」
「ナナミンー!助けてー!」
「ななぴ〜!もう無理〜!」
テスト前はこんな感じで、友人たちに泣きつかれるのが恒例。
特にこの柊斗、黄瀬、白河の三人はテスト前に嘆いてる定番のメンツで、この時期になると黄瀬の頭の上のお団子と白河のツインテールが心なしか萎れている気がする。
まぁでも教える側も復習になるし、教えるのも嫌いじゃないし、むしろ楽しんでやってるので全然いいのだが。
というわけで、図書室で勉強会。ちなみに柊斗は今日バスケ部がたまたま休みで、彼女は別の友人グループと勉強しているらしい。
「始める前に、今みんながどのくらいできてるのか把握しときたいな。この前の中間テストはどうだった?」
「うっ……言わないとダメ?」
「嫌なら言わなくていいよ。ただ言ってくれた方が現状把握になるし、教える方としても助かるかな」
「うー……じゃあ…………ウチは190位でした……」
「すーは187位〜」
「オレはこの前光に教えてもらったからな!ちょっと上がって172位だったぜ!」
「……俺達の学年って何人いたっけ?」
「たしか200人ちょっとくらいだな」
「これは教え甲斐がありそうだな……」
「えへへ〜それほどでも〜」
「皮肉って知ってる?」
「そんな難しい言葉知らないな〜」
「まぁウチらは伸びしろだらけってことだよね!」
「そうだ!ポジディブに行こうぜ!」
「……そうだな。じゃあやってくか。ちなみに皆不安な教科ってどんな感じ?」
「ウチは国語かなー」
「すーは理科がヤバい〜……」
「オレは英語だな。こちとら日本人だ」
「見事にバラバラだな。誰かに合わせて1教科だけ進めようとすると効率悪そうだし、それぞれやりたい科目やって、詰まったところが出てきたら俺に聞いてもらうって感じでいいか?」
「「「はーい」」」
「あとはそうだなー……具体的な勉強の進め方だけど、みんなどうするつもりでいる?」
「ウチは教科書でテスト範囲のページをひたすら読んていこうと思ってた」
「すーもそんな感じ〜。重要そうなところにマーカー引いて、ノートまとめ直そうかなって〜」
「まぁまずは教科書とかノートから始めるよな」
「なるほど。まぁそれで頭に入る人もいるんだろうけど、今日は問題集からやってもらいたいな」
「え?まだ何も理解できてないのに問題解いても意味なくない?」
「そうそう〜。全然解けなくて終わりだよ〜」
「いや、最初はわからなくて良いし当然だよ。それでもどんな問題が出るか傾向がわかるし、解答解説を読んでみてそれで理解できればOKだし。理解できなくても、自分が今どれくらいの実力なのかをすぐに把握できるからな」
「んー……たしかに、自分の実力を知れるっていうのはそうかも」
「勉強で重要なのは、全体像を把握することだって思ってる。知識と知識を紐づけて、テスト本番で記憶を手繰り寄せやすくするみたいなイメージかな。教科書とかノートを読むだけの丸暗記な勉強だと、知識が完全に独立しててそれができないから、テスト本番で思い出せなかったり応用問題に対応できないんだよ」
「あ〜、それすーもすっごい心当たりある〜……ホントにもうすぐ思い出せそう!ってところまで来てるのに、結局テスト終わるまで思い出せないやつ〜」
「うわー、あるあるだわそれ。全体像とか知識の紐づけとか、オレそんなの考えたことなかったぜ」
「俺も昔はそうだったよ。でも問題を解こうとすると、その知識の紐づけがいきなり要求されるから、嫌でも全体像を把握しようとするようになるって気付いたんだ。で、必要なところを教科書や辞書で調べていけば、次似たような問題が来たときに解けるようになってるって感じかな」
「へ〜。なんか難しそうな話だけど、なんとなく納得感はあるかも〜」
「この方法が絶対とは言えないけど、だから今日はとりあえず不安科目の問題集を解いてみてほしい。まぁ教科書読んでもらうだけだと、俺がいても教え辛いってのが一番の理由なんだけどな。じゃあ、分からないところがあったら俺に遠慮なく聞いてくれな」
「「「はーい」」」
そうして全員が勉強開始。
それぞれが詰まって分からない問題の質問を受け付けて、それに解答していく。
実はこの質問の聞き方というのも重要だったりする。
しかし、中間テスト下位組とはいえ、そこはさすがに県内トップクラスの偏差値である常陽高校の生徒たちだ。
黄瀬も白河も柊斗も質問の聞き方にセンスが見えて、こちらとしても教えやすい。
テストの点数が伸びないという人たちは、実は意外と勉強の仕方が悪いだけだった、というパターンも多い。
中学校では恐らく全員がトップに近い成績だっただろうし記憶力は悪くないのだから、ちょっと改善すればそれを機にどんどん伸びる、ということも十分にあり得る。
この三人は俺が見る限り、単純に勉強量が足りてなかっただけのように見える。
現に三人とも今回の勉強会に大きな手応えを感じてくれたようだ。
「ナナミンありがとー!今日めっちゃ勉強進められた気がするー!」
「すーも〜。なんかすごい達成感あるよ〜」
「やっぱ光がいると全然違うなー!」
「ああ、満足してもらえたようで良かったよ」
こうして勉強会は良い成果を挙げられたようで、無事終了した。
◆◇
それから数日後、本格的なテスト準備期間に突入して部活動も全て休みになった頃。
昼休みに教室で飯を食っていたら、赤羽に話しかけられた。
「七海、ちょっといい?」
「ん、なんだ?」
「この前さ、陽葵とか菫たちと勉強会したんでしょ?」
「ああ、やったよ」
「それで二人が『すごい捗った!』なんて言って喜んでたからさ、アタシたちも勉強教えてほしいんだけど……いいかな?」
「おう、いいぞ。でも、『たち』ってことは他に誰かいるのか?」
「えぇ、葉月もいるわよ。放課後に手芸部の部室でどう?」
「え?」
「え?」
「……いや、色々とツッコミ所があって。まず、部外者が手芸部の部室入っちゃダメだろう」
「それは全然大丈夫よ。先輩たちもたまに友達を連れて来てたりするし、手芸部はそこんとこかなり自由なの」
「ま、まじか……手芸部ってそこまでユルいのか」
「そうそう。それにテスト期間で部活休みだし、一応他の人達にも部室使わないか聞いてみたけど、しばらく誰も使わないらしいから。部長に確認も取ってるし、勉強場所にちょうどいいかと思ってね」
「それなら問題ない、のか……?あと、緑川も来るって?」
「うん。アンタ葉月と幼馴染なのよね?じゃあ問題ないでしょ?」
「うーん……緑川はどう言ってるんだ?」
「ん?どうって?」
「いや、俺が来ることに対して何か言ってなかったのか?」
「特に何も?というか、葉月は自分から参加したいって言ってて、かなりノリ気だったし」
「え?マジで?」
「こんなことで嘘なんてつかないわよ。ていうか、七海がこんな煮えきらないの珍しいわね。……あ、葉月とは疎遠だって言ってたんだっけ?もしかしてあの子と何かあったの?それならごめん、考えるけど」
「……」
まぁ、あったと言えばあった。
俺がこれまで緑川を避けていたのも、理由があってのことだった。
しかしあれは中学二年生の終わりの出来事で、もう2年以上も前のことだ。
もしかしたら緑川の方で気が変わったのだろうか。
……まぁ、彼女がノリ気だって言ってるのならもういいのかもな。
別に俺は緑川を嫌っているわけじゃない。それに、登下校時に彼女を見かける度に避けるのも面倒ではあったし、そろそろ頃合いってことか。
「いや、別に何もないよ」
「ホントに?もしかして……も、元カノとかじゃないでしょうね?」
「まさか。俺は恋人なんていたことないよ。じゃあ放課後やろうぜ」
「そそ、それなら良かったわ。ありがと、よろしくね」
◆◇
そしてその日の放課後。
赤羽に連れられて、俺は手芸部の部室へとお邪魔することになった。
「失礼しまーすゥ……」
女子しかいないというアウェイ過ぎる部室に部外者が入るということで、尻すぼみで情けない声になってしまった。
部屋の中は、これまで制作したであろう衣装が壁に掛けられていたり、壁際に並んだ机の上にカラフルな布が雑然と重ねられていたり、棚にぬいぐるみなどが並んでいたり、まさに手芸部といった部室。
中央には会議用の長机が二つくっつけられてパイプ椅子が並べられており、そこには緑川と橙山が座っていた。
「おう、緑川に橙山。今日はよろしく……って、あれ?橙山?」
「はい!七海先輩!よろしくお願いします!」
「今日は赤羽と緑川っていうメンツだって聞いてたんだが、お前もいたんだな」
「いやー、楓先輩と葉月先輩が七海先輩に勉強教えてもらうって聞いて、それならボクも教えてもらおうかと思って来ちゃいました!七海先輩って勉強もできるんですねー」
「そっか、まぁ一応、10位以内はずっとキープできてるよ」
「えっ!すごっ!?それなら今日はガンガン質問しちゃいますね!」
「まぁ一年の範囲でも答えられると思うし、構わないよ。……っと、緑川は久しぶりだな。よろしく」
「う、うん、久しぶり、ひー……七海くん。わたしの方こそよろしくね」
それぞれ軽く挨拶をして、早速勉強会を開始。
先日と同じように、それぞれの苦手科目を問題集から進めるように言って、まずはモクモクとやってもらう。
赤羽の順位はたしかいつも50位近辺で、それほど勉強には困っていないタイプなので、それほど詰まらずにスイスイと問題をこなしていた。
そして橙山も意外に……と言ったら失礼だが、実は勉強が得意なようで、ガンガン質問すると言っておきながら黙って問題集と向き合っている。勉強中にはメガネを掛けるスタイルらしく、いつもの快活さに反して知的な雰囲気も感じられた。
二人に質問されたのは結局数回程度だ。
しかし問題は緑川だった。
「え、この前の中間テスト208位だったのか?」
「お、お恥ずかしながら……」
「ほぼ最下位ってことか……」
「葉月ってこんな『お淑やかで可憐な清楚系』っていうナリしといて、意外とおバカなのよねー」
「楓ちゃんひどい……その通りだけどそんな言い方しないで〜」
「あ!葉月先輩『お淑やかで可憐な清楚系』ってのも否定しないんですね!」
「そ、それは言葉のあやだよ!二人とも意地悪……」
「はは。まぁテスト本番までまだ時間あるし、今日はどんどん聞いてくれていいから。これから頑張っていこうぜ」
「うん、ありがとう……七海くん」
他二人に手間がかからなかったぶん、今回は緑川につきっきりだった。
しかし、前回の黄瀬や白河たちの時とは違って、緑川の場合は質問自体もおぼつかない感じだ。
問題で詰まっている箇所を見ても、明らかに地力が足りてないことが分かる。
緑川の中学生の頃の成績を考えても常陽高校はかなり高望みだったし、恐らく一年生の頃からずっと追いつけていなかったのだろう。
これを見るに、今回の勉強会は藁にも縋る思いで俺を頼りたかったということなのかもしれない。
それなら緑川がノリ気だったのも理解できる。
問題を解いてもらいながら、根本の基礎部分を交えて解説するという進め方で、あまり進捗が芳しくないまま本日はタイムアップ。
「じゃあ今日はお開きにしましょうか。七海、今日はありがとうね」
「七海くん、ありがとう」
「七海先輩ありがとうございました!」
「どういたしまして。また何かあったら聞いてくれな」
そして玄関まで四人で並んで歩き、それぞれの家の方向へ解散。
緑川と俺は二人並んで、同じ駅の方向へ歩き出す。
彼女の家は近所なので、これから電車に乗って約1時間以上、二人っきりの帰り道。
……そうだよな、こうなるよな。
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