第12話 偽彼氏

 そして体育祭当日。


 幸いにも今日は快晴で、絶好の体育祭日和である。


 教室で着替えを済ませ、全校生徒が校庭に集合。


 学校イベント特有の、非日常を予感させるこの移動中の雰囲気、妙な高揚感があって好きなんだよな。


 全生徒がクラス毎に整列し、選手宣誓。


 代表はもちろん生徒会長の藍沢先輩だ。


 背筋がピンと伸びキリッとした姿勢、少しハスキーなトーンの声音、そしてどこまでも届くかのような気持ちのいい発声。


 彼女が何か発言するだけでその場全体が引き締まる、そんな不思議な力を持っている女性だと思う。


 そしていよいよ体育祭が開幕。


 ……とはいえ、普通の高校生の体育祭にそんな大きなドラマがあるわけでもなく、淡々とプログラムが消化されていく。


 残念ながら俺は特別運動ができるわけでもなく足の速さも平均的なので、クラス対抗リレーでヒーローになったりすることもできそうにない。


 そこは柊斗たちを始めとした運動部たちに頑張ってもらおう。俺にできることは精一杯声を出して応援したり実行委員としてバックアップすることくらいだ。



 ただ、この一日で俺が一番活躍したシーンがあったとするならば、それは恐らく借り物競走だろう。


「七海先輩!」


「おう橙山、なんだ?」


「すみません、借り物になってください!」


「え?」


 そして二人で全力疾走してゴール。


 お題は。


「なるほど、料理ができる人か」


「楓先輩から七海先輩は料理がうまいって聞いてたんで!ボクの周りで料理できる人いなかったし、七海先輩が近くに見えたんで助かりましたー」


「ああ、お役に立てて何よりだよ」


 そして自分のテントに戻ると。


「ナナミン!」


「黄瀬?どうした?」


「借り物競走!早く早く!」


「ま、また?」


 そして二人で全力疾走してゴール。


 お題は。


「あぁ、クラス委員長ね」


「そう、さすがにカエデより男子のナナミンの方が足速いし、近くにいたのが見えたから。さんきゅーね」


「それもそうだな。役に立てて良かったよ」


 そして自分のテントに戻って息を整えていると。


「七海!」


「あ、赤羽?」


「借り物競走!来て!」


「は、はい」


 そして二人で全力疾走してゴール。


 お題は。


「またクラス委員長か。黄瀬と被ったな。お前一人でもゴールできたんじゃ?」


「そういうわけにもいかないでしょ。近くにいたのが見えたし、来てくれて助かったわ」


「いや、役に立ててよかった、よ」


 そして自分のテントに戻って膝に手をつき息を整えていると。


「七海クン!」


「藍沢先輩……?まさか……」


「すまない!借り物競走だ!」


「は、はいぃ……!」


 そして二人で全力疾走してゴール。


 お題は。


「パ、パソコンに詳しい人ですか」


「ああ、生徒会にいる詳しい子は女子でテントの場所が遠かったし、偶然近くにいた七海クンが目に入ったからね。申し訳ないが呼ばせてもらったよ、ありがとう」


「い、いえ。お、お役に立てて、よ、よかったです……」


 そして自分のテントに戻って膝に手をつきゼーハーと息を整えていると。


「ななぴ〜」


「し、白河?もももしかして、借り物競争か?」


「そう〜、ごめんけどよろしく〜」


「ま、ま、任せろォ……!」


 そして二人で全力疾走してゴール。


 お題は。


「ペ、ペット!?」


「そうなんだよね〜。知らない人のペットなんて連れて行くわけにもいかないし、それなら近くにいたななぴーにペットになってもらおっかなって。すー声掛けれる人が少ないから助かったよ〜」


「誰だよこんなお題考えたやつ……まぁ、ペットでもお役に立ててよかった……よ……」


 俺達のクラスがいたテントがお題を選ぶエリアに近かったこともあって、俺は引っ張りだこで大活躍(?)だった。朝のランニング習慣がなければ無理だったな。


 しかし全員が目立つ容姿の女子たちだったということもあって、全校男子に俺の存在が認知されてしまい恨みを買いまくるハメにもなったのだが。


 同じクラスの男子から「もしかしてお題『好きな人』だったのか!?」なんて詰め寄られたりもしたが、今どきそんなお題あるわけないだろ。……いや、ペットがあるくらいだからもしかしてあったのかもしれんが。



 こんな一幕もありながら、ワーワーと騒いで楽しかった体育祭も無事終了。


 うちのクラスも必至に食らいついたが、さすがに学年の運動部が集まったオールスタークラスには勝てず。


 最終的には二年生の中で3位という結果になった。


 まぁこの結果でも善戦した方だろうし、このイベントを通じてクラスメイトの絆もより深まったと思うので、意義あるものになったはずだ。




 ◆◇




 そして学校行事のイベント終わりといえば、クラスの打ち上げ。


 学生なんてのは事あるごとに打ち上げたがる生き物なのである。


 こういった集まりが苦手だという人もいるが、俺は好きだし、我がクラス2-6は嬉しいことに全員が欠けることなく出席してくれることになった。


 場所は高校生の打ち上げの定番、食べ放題のバイキングだ。


 肉を食いまくるもよし、寿司を食いまくるもよし、スイーツを食いまくるもよし。座席だって移動し放題話し放題で、食べ盛りの高校生の打ち上げ場所としてこれ以上もないだろう。


 事前に予約していたスタミナ次郎にクラスで集合。


 俺は一度帰ると時間が間に合わないので、テキトーに時間を潰してから直接現地に向かう。


 到着する頃にはほとんどのメンバーが揃っており、店内へ。


 全員が集合したら、赤羽が音頭を取ってソフトドリンクで乾杯。


 あとはもう、時間いっぱい各々が好きな時間を過ごすだけだ。


 俺もテキトーな男だらけの席に座って、駄弁り始める。


 やはり本日の話題の中心は体育祭のこと。どの競技が楽しかったか、誰が活躍したか、どこのクラスの応援が良かったかなどなど。


 そして案の定というか、俺の借り物競争の件は柊斗や他の男子たちからイジられることになった。


「おい光、やっぱお前ハーレム作ってんじゃねぇかよ。いい加減認めやがれ」


「いや、向こうから借り物でお願いしてきたんだからハーレムもクソも無いだろ」


「ていうか七海くん、一年生の女の子にも連れられてなかった?あの子もやけに可愛かったけど、どういう関係?」


「ああ、アイツは入学前案内会で同じ班になってから話すようになったんだ」


「え?接点それだけ?それであんな仲良さそうに走ってたの?」


「そうだな、一応きっかけはそれだけだよ」


「おれ、入学前案内会で一緒になった先輩とか入学以降話したことないし、多分向こうもおれのこと覚えてないぜ?」


「だよね。それだけでわざわざ借り物競争にまで連れられるとか、そんなことあるのかなー?」


「んー、まぁアイツがそういう性格ってだけじゃないか?」


「へー、そっか。まぁ七海くんって一目惚れされるような感じでもないしね」


「まぁそうかもだけど、相変わらず失礼なヤツだなぁ」


「橙山ちゃんだろ。まさか光と接点あったとは驚いたぜ」


「あれ、柊斗って橙山と知り合いなのか?」


「うんにゃ。こっちが一方的に知ってるだけ。あの子中学のときから有名だったし。雰囲気結構変わってて驚いたけどな」


「ふーん、そうなのか」


「まぁまぁ、それよりさ。なんで七海に向かって一直線にあんな女の子が群がってたのかってのが重要じゃないか?」


「それもそうだな。光、吐け!」


「それもたまたまだって。俺らのテントお題選びの場所から近かったじゃん。あとお題もぜん……ほとんど全部が俺に当てはまるものだったし」


「なぜちょっと言い淀んだ。ちなみにお題って何だったんだ?」


「たしか……クラス委員長と、料理ができる人と、パソコンができる人と……あとは……」


「あとは?」


「……ペット」


「「「「ペット!?」」」」


「お前いつから女子のペットになったんだよ!」


「てかなんだそのお題!」


「俺が聞きたいよ!」


「それはお題引いた人も可哀想だね」


「誰か連れて来るっていうウケ狙いのお題だったのかもしれんが……ちょっとセンス悪いかもな」


「ああ、ゴールでお題確認されたとき、俺の方三度見くらいされてめっちゃ居た堪れない空気になったよ」


「まぁ、そりゃ滑るよな……」


「で、光はあの中の誰のペットなんだ?生徒会長か?まさかの橙山ちゃんか?」


「語弊がある言い方やめろ。白河に頼まれたんだよ。本物のペット連れてくわけにもいかないからって」


「ほ……ほう、白河さん、ですか……」


「なんか絶妙に想像できそうなとこきたね」


「僕もスミレたんのペットになりたかった……」


「いや、お前ら発言がキモ過ぎるだろ」


「白河さん信者、こんなところにもいるんだねぇ」


「1匹見たら10匹はいるってオレ聞いたことあるわ」


「害虫みたいな言い方やめてくれる?」


「似たようなもんだろ。白河さん本人は文句なしの美少女だけどな」


「たしかに。メイクとかファッションとか色々個性的だけど、好きな人にはマジでたまらないんだろうねー」


「実はおれ、あんな感じの地雷系ファッションの女の子って結構好きなんだよなー」


「僕も」


「それは知ってる」


「俺の方から白河本人に伝えておくよ。本当にペットになりたがってるやつがいるって」


「それはやめてください冗談ですすみませんでした」


「——わー、男子たち相変わらずなんかキモそうな会話してるねー」


 むさ苦しい男臭すぎる会話をしていたところに、ギャルギャルしくも清涼な女子のハイトーンボイスが降ってきた。


 そちらを振り向くと、黄瀬と赤羽の二人。


 我がクラスの二大アイドルの登場に、彼女がいない男子たちはその一瞬でほんの少しピンと背筋を伸ばし、さりげなく前髪を弄りながら二人が座れるように席を詰めた。現金過ぎる。特にスミレたんのペットになりたいとか言ってたお前は節操無さすぎるだろ。


「おう、二人ともお疲れ」


「七海もお疲れ。今日は色々ありがとね。借り物競争とかも助かったわ」


「赤羽も打ち上げの音頭とかありがとな。今ちょうどその借り物競争の話してたとこだよ」


「ナナミンがスミレのペットになったって話?」


「へ?菫のペ、ペット……?七海、それどういうこと?」


「え、いや、そうだけど……なんで黄瀬が知ってんの?」


「スミレ本人に聞いたんよ。『ななぴーをペットにしちゃった〜』って嬉しそうに言ってたよ」


「嬉しそうだったのか……」


「ふーん、七海ってそういう趣味だったんだー?」


「ジト目でこっち見るのやめてくれ……ただの借り物競走のお題なんだって」


「アンタにとってはただのご褒美じゃないの?」


「俺、風評被害が生まれる瞬間を今目の当たりにしてるよ」


「赤羽さんいいぞ、もっと言ってやってくれ。光はもうこれまで美味しい思いしまくってるんだからこのくらいの仕打ちは受けて然るべきだ」


「俺はただの被害者だ……」


「何言ってるんだ、いつも可愛い女子たちにばっかり囲まれやがってよ」


「……だから皆ただの友達だって」





「——んー?ウチはナナミンをただの友達とは思ってないよ?」





「え、あ、いや……」


「え?黄瀬さんどういうこと?」


「ウチはナナミンが好きってことだよ」


「へ?」


「ちょ、おま!?」


「え?ひ、陽葵……?」


「でもこの前、告ってフラれちゃったんだけどねー」


「お、おい……!」


「う、嘘…………」


「「「「えぇーー!?」」」」


 そこからはもう阿鼻叫喚。


 俺が黄瀬をフったという情報が席から席へと伝播して「ワー」だの「キャー」だの「リア充爆発しろ!」だの「僕のヒマリたんがぁ!」だの。


 さすがに店側に迷惑なので赤羽が止めるかと思いきや、何やら黄瀬の方を見ながらただ口をパクパクさせているだけだった。


 なので俺の方で各席に回って声掛けして、なんとか騒ぎを抑えられた。ただ渦中の人間なので色々と問い詰められてしまい少しの間余計に騒がしくしてしまった感もあるが。


 そうして一旦落ち着いたところで改めて席に戻り、俺は黄瀬に問いかける。


「あ、あのー……黄瀬さん?どういうおつもりでしょうか……?」


「え?別に事実でしょ?」


「いや、そうだけどさ……言ってよかったのか?」


「うーん、ウチも色々考えたんだけどね。やっぱストレートに行くのがいいんじゃないかなって」


「ストレートに?」


「ウチは色々悩みまくってあんな行動取っちゃってさ、後悔もしてるんだけど……でも、ナナミンを好きでい続けちゃダメってことはないでしょ?」


「まぁ……人の感情を強制なんてできないからな」


「たしかにウチがやらかしたことは最低で、ナナミンの信頼を損ねちゃったとも思う。……でも、それでもこれからナナミンの一番になろうと思ったら、曲がり道じゃなくて真っ直ぐ突き進むのが一番の近道なんじゃないかって思ったんだよね。だからこうやって、恋心オープンにしちゃえって」


「……だけど俺の答えは変わらないぞ。黄瀬のことはいい友人だと思ってるけど、そうやって想われ続けても最後には傷つくだけだと思う。だから俺としてはあんまり勧められない、ってのは伝えさせてくれ」


「うん、それはもちろん。それにこの前十分傷ついちゃったしね。でも人の気持ちって変わるもんだと思ってるしさ、少しでもチャンスが残ってるなら、ウチはそうなることを願い続けることにするよ」


 そうやって黄瀬が告げたところで。


「黄瀬さーん!そんな朴念仁なんかよりおれと付き合ってくれー!」

「いや、僕と付き合ってください!」

「いいや、ぼくと!」

「拙者と!」


 なぜか彼女がいない男子たちによる黄瀬への一斉告白大会が始まった。


「ごめんねー?ウチ、やっぱりナナミン一筋だからさー」


 黄瀬はこれ以上ない朗らかな笑顔で彼らをバッサリ切り捨てる。告白した奴らはその場に崩れ去った。


 コイツら絶対分かっててやってるだろ。こういうノリは個人的に嫌いじゃないし笑ってくれてる女子も多いが、ドン引きしてそうな女子もいるけどいいんだろうか。


「そういうわけだから。これからよろしくね?ナナミン」


「……まぁ、お手柔らかにだけ頼むよ」


「うん!迷惑にはならないようにするよ。あ。あとカエデも。よろしくね?」


「な、なななんのことかしら?」


 唐突に話を振られ、顔を真っ赤にしてアワアワしている赤羽。なんかこんな感じの赤羽見るのも久しぶりだな。


 そうして過去イチで騒がしかった打ち上げも終わり。


 帰り際に女子たちにバシバシと背中を叩かれたり、解散して駅までの道のりで男子たちに詰問されまくったりと、これからやってくるであろう前途多難な未来を予感させられた。




 ◆◇




 そして体育祭が終わって数日、まだどこかにイベントの熱の名残惜しさを感じさせる頃。


 昼休みに弁当を食い終わって、手洗い場で歯磨きしてから教室に戻ろうとしていたら。


「あ、七海クン。今ちょっといいかい?」


 廊下で偶然出会った藍沢先輩に呼び止められた。


「あ、どうも藍沢先輩。なんでしょう?」


「実は七海クンにちょっと相談したいことがあるんだけど、大丈夫かな?」


「ええ、もちろんいいですよ。どんな内容ですか?」


「あー、いや……ちょっとここでは話しにくい内容でな……放課後に二人で話したいんだがダメか?」


「へ?放課後ですか?まぁちょっとなら大丈夫ですけど……」


「あぁ、それほど時間は取らせないよ。場所はそうだな……生徒会室がある階の空き教室があるだろ?私の方で鍵を開けておくから、そこでどうだろう?」


「はい、わかりました。じゃあ放課後になったらすぐに向かいますね」


「あぁ、よろしく頼む」


 そう言って藍沢先輩は三年生のクラスがある方へと戻って行った。


 しかし、藍沢先輩が俺に二人で相談したいことって何だ?しかもわざわざ空き教室を使って。


 少し考えてみたが特に思い当たることもないので、まぁ恐らく前のようなパソコンとかデジタル関係の相談だろう、くらいに思っていた。


 そして午後の授業も終わり放課後。


 俺は指定されていた場所へと向かった。


「失礼しまーす……あ、藍沢先輩。すでにいらっしゃったんですね」


「ああ、こちらから呼び出しといて待たせるのも悪いからな。来てくれてありがとう七海クン」


「藍沢先輩には普段お世話になってますから、このくらいお安いご用ですよ。でも二人っきりで相談したいことって何だろうってのはかなり気になりましたけどね」


「そ、そうか……思わせぶりな感じになってしまったな。すまない」


「いえいえ、全然大丈夫です。それで、改めて相談したいことってなんでしょう?パソコンのこととかですかね?」


「ああ、いや、今回はそういった相談ではなくてな。どっちかというとお願いしたいことがあるんだ」


「お願いしたいこと?」


「あぁ……七海クン。念のため確認なんだが、君は今お付き合いしている女性などはいないんだよな?」


「え?……い、いませんけど……」


「そ、そうか。なら良かった……」


 俺の答えに安堵した様子を見せた藍沢先輩は、それから言葉を続けず、下を向きながら黙った。


 二人きりの空き教室に妙な沈黙の時間が流れる。


 何だこの空気……


 さっきの質問といい、まさか……


「七海クン」


「は、はい!」







「——よければ、私の恋人になってくれないだろうか?」







 ……マジか。


 本当に予想だにしていなかった内容だったので、一瞬だけ脳の処理が追いつかずフリーズしてしまった。


 藍沢先輩から好意を持たれているだなんて、これまで感じたことがなかったから。


 黄瀬の場合はクラスも同じでよく一緒にいたし話もたくさんしていたから、好意を持たれるようなことも理解できるのだが……


 藍沢先輩とは委員会でちょっと手伝ったり、たまたま会ったときに会話するくらいの仲だ。


 それがまさか、告白をされるようなことになろうとは……


 こんな状況になって改めて藍沢先輩のことを考えてみるが、彼女が魅力的な女性であることは疑う余地もない。


 身長は女子の中では高めでスラッとしていて美人だし、生徒会での手腕や周りからの信頼、普段から接している様子などを考えれば、その器量の良さだって伺える。


 三年生男子の人気をほぼ独り占めしているのも、客観的に見て納得感はあると思う。


 ……が、しかし。


 それでもやっぱり、俺の返事は決まっている。


「……ありがとうございます。まさか藍沢先輩から告白されると思ってませんでしたし、そう言ってもらえて嬉しいです。……でもすみません、俺は恋人を——


「あ、あぁ、申し訳ない。そうじゃなくて……」


 ——作るつもりはな……って、はぇ?そ、そうじゃなくて?」


 俺の渾身の告白の返事に予期せぬカットインが入り、情けない気の抜けた声が出てしまった。


「大事なことを言い忘れてしまってたよ、それで誤解を与えてしまったようだ。すまない」


「……大事なこと、ですか?」


「あぁ、実は七海クンには本当に恋人になってほしいわけじゃなくてな……」


 ……?


 全然話が見えないので、そのまま藍沢先輩の次の言葉を待った。





「つまり君には、私の偽彼氏になってもらいたいんだ」


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