第07話 嫉妬煽りの破壊者
柊斗とショッピングモールに出かけた日から数日、まだまだGWの真っ最中。
去年同じクラスだったヤツを中心にしたメンバーの男子たちに誘われてカラオケにやってきた。
ちなみに柊斗は彼女とデートがあるため来ていない。
そのせいか偶然にも本日の集まったメンバーは全員独り身ということに誰かが気付いた途端、彼女持ち男子たちへの恨みごとをぶちまける会も兼ねることになった。何気にこういう男子特有のノリは好きだったりする。
約10人というなかなかの大人数で集まったということもあって、ロングフリータイムでガッツリ歌いまくるとのこと。
広めの部屋を案内され、お調子者くんがデンモクをいの一番に手に取り、アップテンポなビジュアル系バンドの曲のイントロが流れ始めた。
あとは流れにまかせて各々好きに歌っていくだけ。
俺は最近流行りのバンドとか人気のボカロ曲などを周りに被らないように入れて、オク下で無難に歌っていくスタイル。
ちょっと疲れたらBGMを流しながら談笑。
休み中何をしていたとか、それぞれの新しいクラスの雰囲気とか、部活のこととか、今度のテストのこととか。
そしてやっぱり、話の流れは恋バナへ。
俺は一旦傍観モード。
「あー、やっぱ彼女欲しいよなぁ」
「華がないよ華が」
「灰原って今日彼女とデートだから来てないんだろ?しね!」
「言葉強くてワロタ」
「なんで僕達には彼女できないんだろーねー」
「まぁおれらみたいな陰キャは、これが現実ってことなんだろうなー」
「いやいや、でもさ、よく考えたらうちの学年ってイケメンでも彼女いないやつ結構多くないか?」
「そういえば確かに」
「サッカー部のエースのアイツとかな」
「あんなやつらに彼女できないなら、ぼく達に彼女ができなくてもしょうがないね」
「でもサッカー部のエースって、一年のときに告白して断られたらしいぜ」
「え、マジで?誰に?」
「黄瀬さんだよ」
「うわー、そうなんだ。お似合いっぽいけどね」
「黄瀬さんって軽そうに見えて意外とガード固いんだよな」
「テニス部のヤツは赤羽さんに断られたって話も聞いたぞ」
「え!?マジで!?それ初耳だわ」
「委員長は入学したての頃から素材の良さ光ってたけど、どんどん垢抜けてって可愛くなってるもんなぁ」
「あとアレだ、文系のあのクール眼鏡くんは緑川さんに告白して玉砕したらしい」
「うおぉ……マジで目立ってる男子が全滅じゃん」
「……って、あれ?……ってことはさ、あのイケメン達に彼女がいないのって……」
「あー、そっか」
「だな……」
すると突然、その場にいた全員が、聞き役に徹してお茶を飲んでいた俺に視線を向けてきた。
「ん?どうした?」
「お前が全部悪いってことだよ、七海」
「急な理不尽やめろ。なんでだよ」
「理不尽なのは貴様の存在だ!」
「そうだそうだ!」
「おれたちの爆乳ギャルを返せ!」
「美少女委員長を返せ!」
「美少女幼馴染も返せ!」
「あと僕たちのスミレたんも返せ!」
「奪ったつもりもないし、お前たちのでもないから。言ってることキモ過ぎだろ、だから彼女できないんじゃないか」
「会心の一撃やめろ!」
「確定反撃やめろ!」
「くそ効いたわ」
「てかお前らも去年同じクラスだったし、アイツらと結構仲良く話してたじゃん」
「あー、それは……」
「なんというか、お溢れに預かってましたというか……」
「お溢れ?」
「まぁつまり、七海と一緒にいたから話せてただけってことだ」
「あ、そうなんか?けどそうじゃなくても、アイツらって普通に話しやすいと思うけどな」
「いやいや、あんな可愛い女子たち相手だと普通はハードル高いって。七海がある意味異常だぞ」
「まぁこんな感じだからこそモテるのかもしれんが」
「なんだそれ。別に俺は普通だって」
「でもさ、七海くんって顔はたしかに普通だよね?」
「そんな面と向かって言われることもあまり無いし突然でたまげたけど、まぁ自分でもそう思うな」
「カースト上位って感じでもないしさ。ってことは七海くんってぼく達にとって希望的な存在なんじゃない?」
「ほう……?なるほど、そういう見方もあるか?」
「いや、希望でもあるけど、ある意味絶望的存在でもあるんだよな」
「そして理不尽な存在ね」
「もはや俺がポエム的な存在になってるんだよ」
「ラブコメ的な存在でもあるけどね」
「たしかに、言われてみれば七海ってラブコメ主人公みたいな立ち位置だよな」
「鈍感系ってところもな」
「いやいや、俺をあんな奴らと一緒にしないでくれ。絶対俺の周りにいる女子も俺を友達としか思ってないって」
「えー、そうかー?」
「全然脈アリだと思うけどねー」
「逆におれ、あの感じで友達と思ってるんだったらマジで女性不信になるかも」
「彼女がいない奴らの言う脈なんて当てにならんけどな」
「だから会心の一撃やめろって」
「くそ効いたわ」
「でもさ、実際七海はどうなん?」
「ん?何が?」
「あんな美少女たちに囲まれて好きにならんの?彼女作りたいとかないのか?」
「……あー、それよく聞かれるけど、俺は彼女とかいいかなーって感じなんだよな。好きってのもよくわからんし、その状態で付き合うのも結局最後にお互い傷つくだけで相手に失礼かなって」
「えー?まじ?おれだったら告白されたらとりあえずで付き合っちゃうわ」
「そこまではいかないにしても、あんなレベルの美少女たちだったら喜んで付き合っちゃいそうだなー」
「黄瀬さんとか赤羽さんとかでもその意見は変わらんってことか?その二人なんかは特に仲良さげじゃん」
「んー……いや、変わらんかな」
「そっかー、まじで冷めてんなー」
「周りから見たらその二人って七海くんに矢印向いてそうな気はするんだけどね」
「あー、いや、それは無いと思うぞ。特に黄瀬は」
「え、なんで特に黄瀬さん?」
「もしかして何かあったのか!?」
「……んー、そうだな……まぁ、男の勘ってやつだ」
「いや、それ当たらんやつじゃん」
「てか彼女いたことない七海の言う勘も当てにならんだろ」
「た、たしかに……今のはみぞおち入ったわ……」
「よっしゃ、七海に一矢報いたぜ!」
「何の勝負?」
「モテ男なんていつでも報いの対象ってことだ」
「しっかしこうなると、七海が彼女作ってくれないと、おれたちも彼女できないってことになるんだよな」
「え、俺が?何でそうなるんだ?」
「いや、考えてもみろよ。恐らく学年屈指の美少女たちの矢印は七海に向いてて、イケメンたちの矢印は美少女たちに向いてるんだ」
「ああ、そっか。七海くんに彼女ができない限りは美少女たちも彼氏作らないし、美少女たちに彼氏ができない限りイケメンたちは彼女作らない。で、イケメンたちが彼女作らないと他の女子たちも彼氏を作らない」
「そう。つまり七海が、我が学年のラブコメをぶち壊してるってことだな」
「大袈裟すぎるだろ。そう言われても俺にはどうしようもできないからなぁ。そんな理由で彼女作りたくないし」
「はーあ。これだよこれ。モテる奴の苦悩ってのもあるわけか」
「まぁ、そういうことになるかな」
「もうモテるってのは否定しないわけね?」
「……ふっ」
「あ!こいつ!!」
「まじ許さねー!」
「こうなったら失恋ソングメドレー入れようぜ!!」
「お前ら失恋はしてないだろ」
「してるっつーの!おれ達男子は可愛い女子たちのことが全員ほのかに好きなんだからよ!」
「七海くんはメドレーで誰も知らない曲を全部歌う刑ね」
「それ地味にキツいやつじゃん」
「そのくらいは受け入れろっつーの!」
非常に男臭いメンバーでのカラオケだったが、なんだかんだで楽しめた。
メドレーでは全く知らん曲を山ほど歌わされたが、音程もリズムも全部ゴリ押しでいったら結構盛り上がった。
◆◇
GWが明けて、学校が再開。高校生は五月病関係なし。
席替えはまだなので、朝は隣の席の柊斗と喋るのが定番。
GW中に彼女と行ったデートの話を聞かされ、糖分いっぱいの一日の始まりになりそうだ。
と、そこに。
「やあやあ二人とも、おはよー」
ご機嫌な様子の黄瀬がやってきた。
「おう、おはよう」
「あ、お、おはよー……」
柊斗はどことなく気まずげに挨拶を返す。
「ねぇねぇ、ウチもこの前の土曜さ、あのショッピングモール行ってたんよー」
「お、おぉ……」
「でさ、二人のことたまたま見つけたんやけどさ、どっか行ってるとこだったし友達と一緒だったから声掛けられなかったんよねー」
「そ、そうなんだ…………って、と、友達?」
「へ?そこ?うん。友達と一緒に行ったけど」
それを聞いた柊斗は、ちょいちょいと俺と黄瀬に顔を寄せるよう指示して、周りに聞こえないようコソコソと話し始めた。
「黄瀬さんさ、実はオレ達も黄瀬さんがいるとこ見つけてたんだよ」
「あ、そうなんだー。それで?」
「あの時一緒にいたのってさ、彼氏じゃないの?」
「いやいや、彼氏じゃないし、そんなのいたことないよー。あれはただの男友達やね」
「あれ?俺らが見たときは手繋いでた気がしたけど、見間違いか?」
「あー、そういえばノリで手繋いでたことはあったかも。その瞬間を見られちゃってたんかもねー」
「……な、なるほどー。オレてっきり彼氏かと思ってどうしたもんかドキドキしちゃってたわ!」
「あはは、大袈裟!気にし過ぎだよー」
「そっか、そんな感じなんだな。黄瀬はあの男子のことが好きなのか?」
「えー?いや、ただの友達だよ!何なにナナミン?ウチに彼氏ができないか気になっちゃってる感じ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。なんか俺の感覚だと、手繋いだりされると勘違いさせちゃったりしそうだと思って」
「うーん、それは大丈夫だと思うよ。あ、でも?」
「ん?」
「アイツって中学からの友達でさ、男友達の中でも特に仲良いんよねー。今はウチも何とも思ってないけどさ、もしかしたらもしかするのかも?なんて思っちゃったりー」
俺達に悪戯な笑みを向けながらそう言う黄瀬。
「そ、そっかー」
「ま、程々にな」
「……うん!了解!忠告ありがとねー!」
したところでチャイムが鳴って、担任が教室に入ってきた。
とりあえず、黄瀬に彼氏がいるというのは俺達の勘違いだったようだ。
◆◇
それから少しの時が経過。
柊斗や他の男子たちと勉強会をしたり、その帰りにみんなでファミレスに行ったり、中間テストで奮闘したり、無事に学年4位という順位を獲得して安堵したり。
特にこれまでと変わらないような日常が過ぎていった。
——しかし、そんなある日。
突然、俺は黄瀬に呼び出された。
二人で話したいことがあるので、教室に残っておいてほしいとのこと。
断る理由も無かったので、それを了承。
そしてその日の放課後、誰もいなくなった教室で俺は黄瀬と対峙している。
「ごめんね、ナナミン。急に呼び出して」
「あぁ、全然構わないよ。何の用だった?」
「……うん、あのね、ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「そう。単刀直入に聞くけど……この前ウチが男友達と一緒にいたとこ見て、ナナミンはどう思った?」
「どうって……普通に『彼氏できたんだなー』って思ったけど」
「……そ、それだけ……?」
「え、うん。それだけだけど……ごめん、何か俺変なこと言った?」
「い、いや、ナナミンは何も悪くないよ……悪いのは全部ウチっていうか……」
そう言いながらガックシと肩を落とす黄瀬。
「そ、そうか。ちなみに、用ってそれだけだったか?」
「……」
俺が問いかけるも、黄瀬は無反応。
沈黙が場を支配している。
……えーと、俺、帰っていいのか?
気まずい空気の中、どうすればいいかと困惑していたら。
突然ガバッと黄瀬が頭を上げて。
「ナナミン!!」
「え、は、はい」
「——ウチ、ナナミンのことが好きなの!だから、ウチと付き合ってください!」
……なるほど、こうなるのか。
実のところ、黄瀬から好意を向けられているんじゃないかという自覚は、少しだけあった。
俺は場の空気とか気にしてしまう方だし、これまで何度か告白されてきたこともあるので、そういう雰囲気は一緒にいるとなんとなく分かってしまう。
とはいえちゃんとした恋愛経験自体はゼロなので、勘違いかもしれないとも思っていたんだが、結果的には俺の勘は当たっていたわけだ。
かと言って自分の方から「あいつ俺のこと好きだろ」みたいに言っちゃうのも自意識過剰で変だしな。それを根拠にわざわざ距離を置くなんてこともしたくないし。
だから俺としては普通に友達の距離を保っていたかったんだが、結局こうなってしまったわけだ。
ただ、俺の返事は決まっている。
「……ありがとう。好きだって言ってくれて嬉しいよ。でも申し訳ないけど、俺には好きとか恋愛とかよくわからないから、彼女を作るつもりがないんだ。ごめんな」
「……っ……そ、そっか。あの、それって、ウチがこの前他の男子と手を繋いでたから?」
「え?……あー、まぁそれもゼロではないかもなぁ」
「あ、じゃ、じゃあ!ごめんなさい、ホントのこと言うけど!」
「ん?ホントのこと?」
「——あれは、ナナミンの嫉妬を煽りたくてわざとやってたの!だからアイツとは、本当に何もないから!ウチは、ナナミンのことだけが好きなの!」
え、わざと?嫉妬を煽りたくて?
…………そんなことあるのか。
「なるほど、そうだったのか」
「う、うん……だから——!」
「——ごめん、それでも俺の結論は変わらないよ。……いや、だからこそ、かな」
「え……」
黄瀬の表情が曇り歪む。
「俺は普段の黄瀬がどんなヤツかって知ってるからさ、話聞いてる限りあれは衝動的に取った行動なんじゃないかって思う。まぁそう思いたいってのもあるけど、人って感情の浮き沈みがあるし、別に俺はそれを否定できないよ」
「……」
「でもさ、俺はパートナーに信頼を証明するためには、行動で示すことが大事だと思ってるんだ。だからその感情の浮き沈みで他の異性を実際に利用しちゃうってのは、俺からは印象悪く映っちゃうかな」
「そ、そっか……そうだよね……ナナミンが好きなのに他の異性と手を繋ぐとか、浮気みたいに見えちゃうもんね……」
「んー……まぁそこまでは言わないし、あくまで俺の考えってだけだから、あまり真に受けなくてもいいんだけどさ。——で、改めてで申し訳ないんだけど、やっぱり黄瀬とは付き合えない。ただ俺としてはこれまで通り友達でいたいって思ってるんだけど、もし黄瀬が俺といるのが辛いって思うなら、遠慮なく言ってほしい」
「……ううん、ウチもナナミンとは友達でいたい、かな。むしろこんなことしちゃったのに、そう言ってくれてありがとう」
「そっか、じゃあそんな感じで。断った俺が言うのもアレなんだけど……これからもよろしくな」
「うん、ウチこそよろしくね……ごめん、ウチまだちょっと残るから、ナナミンは先帰ってていいよ」
「ああ、わかった。じゃ、またな」
そう告げて、俺は教室を後にする。
……ため息が一つこぼれるのは、どうにも抑えられなかった。
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