第06話 嫉妬煽り
5月に入り、いよいよGW直前の一日。
遊びの件で予定を合わせるため、柊斗に教室で話しかける。
「なぁ柊斗、GW中に遊ぶって約束してた件、いつにする?」
「ああ、そうだなー……てか、光って長期休暇はバイトしてるんじゃ?そっちは大丈夫なのか?」
「いや、GWくらいの休暇だとバイト入れるのも微妙だからやらないよ。夏休みとか冬休みとかに入ってるだけ」
「へー、そうなんか。どこでバイトしてるんだっけ?」
「チェーンのカフェだな。具体的な場所は恥ずかしいから教えない」
「えー、それくらいいいじゃん。遊び行きたいし、教えろよー」
「いやぁ、大真面目に『いらっしゃいませ』とか『ご注文は以上でしょうか?』って言ってる姿を学校のヤツに見せるのってかなり抵抗あるって。それに俺まだそんな仕事できないからさ。まぁ仕事ちゃんとできるようになったら教えるよ」
「あー……たしかに自分だったら嫌かもなぁ。わかった、じゃあ気が向いたら教えてくれ。冷やかしに行くから」
「冷やかしなら教えないっての。で、結局日にちはどうする?」
「ああ、じゃあ土曜日にしようか」
「土曜日な、俺も大丈夫。いつも通り集合場所は駅前でいいか?時間は昼くらいでいいよな」
「おう、オレは異議なーし」
「了解。ていうか、結局今回は何の用事なんだ?」
「あれ?言ってなかったっけ?彼女とデート行くから服探しに行きたいんだよ」
「うげー、カップル様のお膳立て要員かー。まぁ服見るのキライじゃないし全然いいんだけど。ていうかそれこそ彼女と服見に行けばいいんじゃないのか?」
「それが、彼女がGW前半は親戚の家に帰るみたいでな。その間暇だしそれなら会う前に服でも見とこうかなー、って。だからがっつりデート服を探す感じじゃないし軽い買い物って感じだ」
「それならこっちも気負わなくて良いな。どんな服見たいとかあるんか?」
「んー特に無いかな。まぁ予算的にはジーヨーとかOURGOになると思う」
「お、何々?服の話ー?」
我がクラスのファッションモンスター、黄瀬がファッションの匂いにつられたのか会話に入ってきた。
「あぁ、俺と柊斗でGWの土曜に服見に行くって話だ」
「あ、前言ってたやつね。どこ行くの?」
「駅前のショッピングモール。ジーヨーもOURGOも入ってるし、飯屋もいっぱいあるし結局あそこになっちゃうな」
「そっかー。まぁこの辺で高校生が買い物行くってなるとそうなるよねー」
「そういえば黄瀬さんってさ、いつもどんな店に服買いに行くの?」
「んー、ウチも似たような感じよ。あとはH&Nとか、ちょっと奮発してGARAとか。あ、でも古着とかも結構好きで探したりするよ」
「なるほど、古着って手もあるのか。でも古着って探すの難しくないか?あんな雑多な服の山からどうやって服見つければいいのかわからんし、俺は敷居高く感じちゃうんだよなぁ」
「あー、そういう人多いよねー。でもウチはその中から宝物を探す感じを楽しんでるっていうか。それでいい服を格安で見つけられたときの興奮がたまらんのよ」
「へー、そういう考え方なのか。面白いな」
「それなら黄瀬さんに古着の探し方教えてもらうのもいいかもな。GWの土曜空いてる?オレの彼女は予定あるから他の女子も誘う感じになると思うけど」
「あー、ゴメンね?ウチ、その日ちょっと予定あるんだよねー」
「そっか、それならまたの機会だな。じゃあ結局、オレと光の二人か」
「おう、俺はそれで構わんよ」
そしてチャイムが鳴り、会話が一区切り。
その場からそれぞれ解散しようとすると、一瞬だけ黄瀬がこちらに意味深な視線を向けた気がした。
「?」
しかしそのまま何も言わずその場を離れていったので、俺もそれ以上は特に気にすることもなく、いつもと変わらない日常が流れていった。
◆◇
それから数日が経ち、GWに突入。
柊斗と過ごす日以外は特にこれといって決まった予定はないから、思うままに過ごしている。
とりあえずやりたかった教科の勉強をしたり、普段行き届いていなかった場所の掃除をしたり、父親に車を出してもらって日用品の買い出しに行ったり、祖父母の家に行って家族団欒したり。
そうしてGWの休暇を数日過ごし、柊斗との約束の日を迎えた。
前日にアイロンとスチームを掛けておいたカジュアルシャツとチノパンとカーディガン、それに定番ローテクスニーカーを合わせた服装。
だいたい俺はいつもこんな感じの襟付きシャツにニットやジャケットをあわせたスタイルばかり。考えることが少なくていいし無難だから好きなんだよな。
朝10時半、同じく休暇中の父親に「行ってきます」して出発。
今日は快晴、ポカポカと暖かくなってきて過ごしやすい、ちょうどいい気温。
電車内にはスーツや制服の人はほとんどおらず長期連休でみんなどこか浮足立っている。
俺はいつもどおりスマホを取り出して、動画サイトで時間をつぶす。
最近は黄瀬の話に感化されたこともあって、男性向けのスキンケア系チャンネルをいくつか見ている。
俺はToutubeではエンタメ系の動画はほとんど見ておらず、こういった学びになるような動画を見ることが好きだったりする。
ただしさすがにずっと動画を見てると飽きてくるので、「そういえば」と以前オタクくんに教えてもらったマンガをアプリで読み始めた。
ラブコメ要素のないものを、ってことでバトルファンタジーものをおすすめしてもらったが、なかなか面白い。今度オタクくんに感想を伝えよう。
そうして時間を潰していたところで電車が目的の駅に到着。
改札を抜けてメッセージを見ると、柊斗はもうちょっとで着きそうとのこと。
駅の出口のちょっと開けたところで待つこと数分、流れ出てくる人並みの中に柊斗がいた。
柊斗はキャップにロゴパーカー、ミリタリー系パンツに厚めのハイテクスニーカーといったストリート寄りの服装。
俺が絶対に選ばないようなアイテムばかりだが、少し色黒で男っぽい顔立ちの柊斗には似合っている。
「おーい柊斗、こっちこっち」
「おお、すまん待たせて」
「5分くらいだし全然。じゃあ行くか」
「おっけー」
軽く言葉を交わして、二人でショッピングモールの方向へ歩き出す。
二人共昼飯を食べていなかったということで、まずは腹ごしらえすること。
フードコートに入っている学生の味方、ハンバーガーチェーンへ。
二人共セットを注文して着席。紙の包装を剥いてからバーガーにかぶりつく。
普段は自分で料理を作っているからこういったジャンクな物は食べないのだが、たまに食べるとメチャクチャ美味いんだよなぁ。
「光は今日なんか見たいものあるんだっけ?」
「ん?いやーコレと言ってはないけど、柊斗が行く店で良いのあれば何か買うかなーって感じ。あ、化粧水切れそうだから未印には寄りたいかも」
「じゃ後で行くか。てか光って服も未印で買ってるんだっけ?」
「そうだな、未印が多いかなー。あとONIQLO。ジーヨーに比べると全体的に1000円くらい高いけど、その分質が良いというか、洗濯でヘタりにくい気がするから」
「ほー、ヘタりやすさとかあんま考えてなかったわ。お前は自分で洗濯するから気付けるんだろうな。オレはその1000円で別の服買いたいと思っちゃうぜ」
「それでも全然良いと思うぞ。俺の場合着る服のパターン決めちゃってて数は必要ないってだけだしな」
「へー。なんか話聞いててちょっと思ったけどさ、光って物欲とかも少ない感じするよな」
「あー、そう言われてみるとそうかも。あんまり欲しい物とかないかもなぁ」
「なんか趣味とかもないんか?ゲームとかスポーツとかさ」
「趣味って言えるようなものも特にないかなぁ。昔はなんか色々やってたけど、今では全然やってないし」
「お、何やってたん?」
「マンガの影響でいろいろやってたよ。普通にTVゲームとかTCGとか……あと釣りとか」
「あー、オレも昔やってたわ!釣りマンガとか流行ってた時期あったもんなー」
「そうそう、ルアーとかもいっぱい買ってな。まぁそれももう全部捨てちゃったんだけど」
「え!?捨てたのか!?それはもったいねーなー」
「……んー、まぁ場所取るし邪魔になったし、もうやらないだろうなって感じだったから」
「なんかそれ、今流行りのミニマリストってやつっぽいな」
「そこまではいかないと思うけどな。でも捨てたらスッキリしたしよかったとは思ってるよ」
「へー、そっか。……てかさ、話変わるけど、もうすぐ中間テストだな」
「おう、そうだな。柊斗は大丈夫そうか?」
「全然大丈夫じゃないってー。二年生になってから全教科難しくなり過ぎてね?だから秀才の光様に教えてもらいたくてよー」
「たしかに一気に難易度上がった感じするよな。でもまぁ俺はまだ追いつけてるし、時間見て一緒にやろうか」
「おぉ!さすが光様!最近ほとんど赤点取ってないのは光のおかげだぜ」
「志低いなぁ。お前もバスケばっかやってないで勉強ももうちょいやれよ」
「いやー、分かってるけど無理無理。オレからしたらお前みたいに普段から勉強してるほうが異端だって」
「習慣づければいいだけなんだけどな」
「それができれば誰も苦労しねーよ!」
そうやってグデグデと話していたら、二人共いつの間にかバーガーセットを完食していた。
少しゆっくりしたら、トレーを返却口に置いてからフードコートを出て、目当ての服屋へ。
とりあえず店内をブラブラして商品を眺めてみたが、ここでは特に俺の趣味に合いそうものは無かったのでスルー予定。
柊斗が熱心に商品を眺めていたので声を掛ける。
「柊斗、なんか良いのあった?」
「んー、Tシャツを何着か買おうか迷ってるとこだ」
「これから暑くなるし良いかもな。ここ数年くらい暑い季節長過ぎるし出番も多いし」
「そうそれ!もう一年間の半分くらい夏って感じじゃね?」
「俺も春服とか出番無さすぎてほとんど買わなくなったわ」
「だよなー。よし、じゃあこれサイズ合わせてみるか」
そう言って柊斗は試着室へ。
気に入ったみたいで何着か購入するようだ。
この調子で俺達は何件かショップをはしごしていった。
「あ、光。この先に未印良品あるみたいだぜ。先にそっち寄ってくか?」
「お、じゃあそうするか」
「しかしGWは人多いよなー。いつもの数割増しくらいで人がいる気がするわ」
「たしかに。普通に知り合いもいるかもな」
「だなー。……って、ん?あれ……ゔぇ!?」
なにやら柊斗が裏返った間抜け声で驚きながら視線を向けていたので、俺もそちらに振り返って見ると。
——黄瀬が見知らぬイケメン男子と手を繋ぎながら歩いていた。
「へぇー、そうだったのか」
「……き、黄瀬さんってさ……兄弟とか、いるんだっけ?」
「弟がいるらしいぞ。でも年は結構離れてるって聞いたな」
「そっかぁ……じゃあ、あれって……」
「多分彼氏だろうな。まぁ騒ぎ立てるのも悪いし黙っとこうぜ」
「……て、ていうか、光。そういう感じなん?大丈夫なのか?」
「ん?何が?」
「……あー、ま、まじか。ここまでだったのかぁ……」
「何で柊斗がそんな動揺してるんだ?」
「いやぁー、ちょっと色々と混乱して……何が起きてるか全然分かんなくてよ……」
「黄瀬に彼氏いるくらい別におかしくないだろ。むしろ今までいなかった方が不思議だったし」
「そ、そうなんだけどさ……事前に知ってた話と全然違うというか……色々と衝撃というか……」
「んー……俺にも何だかよくわからんが……とりあえずデートの邪魔したら悪いし、あっちの店先に見に行くか」
「お、おー……そうだな……」
そうして俺と柊斗は黄瀬たちがいた方向とは逆に向かって歩き出した。
こちらに向けられていた視線には全く気付くことなく。
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