第04話 金髪ギャル
新学期が始まってしばらくが経ち、もう4月の下旬。
新しいクラスにも馴染んできて、クラスメイト達の立ち位置もだいたい確立されてきた頃合いだ。
今日も退屈な午前中の授業を終えて正午のチャイムが鳴り、お昼休み。
俺は昼飯は柊斗と食べることが多いが、あいつは週に何日かは彼女と食べることにしているらしい。
カップルの邪魔をするわけにもいかず、そんな日には俺は特に決まったメンバーと食べずにその時々の気分で食べる場所を決めている。
今日はその柊斗不在の日なので、自分の席でそのまま食べて、周りに集まってきた人たちと喋っていた。
このクラスになってからまだ半月程度だが、すでにクラスの和としてはいい雰囲気になっていると思う。
目立ったクラスカーストみたいなものも存在せず、全員が話しやすい空気になっていて、既に去年のクラス同様お気に入りのクラスになりつつある。
現に今も、俺の周りにはいわゆるオタク系男子グループとお団子金髪ギャルの黄瀬というなかなか異色なメンバーに囲まれていた。
その会話の内容は、主にオタクくんたちのアニメ談義を俺や黄瀬が聞いている感じだ。
「へー、みんなかなり熱心にアニメ追いかけてるんだなぁ」
「当たり前ですぞ!アニメは我々オタクの酸素であり血液ですからなぁ」
「大袈裟……だけど、みんなの熱意見てるとガチっぽく聞こえるのがすごいな。でもアニメって深夜にやってるじゃん?俺寝るの早いから、なかなか見れないんだよな」
「それならサブスクなどに入るといつでも見れますぞ。Omazon Primeとかなら通販サービスのついでに映画やアニメも見れておすすめですな」
「なるほど、そういう手もあるのか。そういえば黄瀬ってオマプラ入ってなかったっけ?Omazonでコスメよく買ってるって言ってたような」
「うん、ウチの家入ってるからたまにアニメも見るよー。でもあれって気になるヤツに限って有料だったりしない?」
「それはあるあるですなぁ。人気の作品は金が取れますからな。ちなみに黄瀬殿はどんなアニメをご覧に?」
「んー、ウチは最近だと『汝に届け』ってやつ見たよー。多分女子向けのヤツだったけど」
「おお、それなら拙者もチェックしていますぞ。アレはなかなかの良作でしたな」
「あ、知ってるんだー!アレ面白いよねー」
「へぇ、女子向けのアニメもチェックしてるんだな」
「もちろん、アニメにジェンダーの境界はありませんからな。そんなもの関係なく、良いものは良いですぞ」
「言われてみればたしかにそうだ。先入観持ってちゃダメだな」
「七海殿はアニメは見ないとのことですが、マンガなども見ないのですかな?」
「うーん、話題になってるやつを無料アプリでチョロッと見る程度だなぁ。でも性に合わないのが多くて、コレといって熱中してるのは無いんだよ。なんかアプリで読めるようなオススメある?」
「それなら、拙者は最近こんな作品が……」
と、こんな感じでガヤガヤと話している。
俺はアニメやマンガには疎いので、正直オタクくん達とは趣味は全然違う。
しかし、共通の話題がないからコミュニケーションが取れないなんて言っている人がたまにいるが、それは俺は間違いだと思う。
それならば逆に、共通の話題がないことを話題にすればいいのだ。
相手の好きなことをちょっと質問してみれば、相手は嬉しそうに話してくれて、会話は盛り上がる。
たまにこっちがついていけない話題を出されることもあるが、そういう時はこっちが改めて質問して会話の流れを軌道修正していけばいい。
そうやって場の空気を作っていくのは楽しいし、自分だけでは思いもよらなかったような話が聞けることもあって、新たな発見や学びに繋がる。
そこで知ったことを別の人に話したりすれば、どんどんと会話のバリエーションも増えていくし、友人の輪も広がって、良い循環が生まれていく。
そうした経験で得られたものも多いので、人とコミュニケーションを積極的に取っていくのは本当に重要だと俺は強く実感していた。
だから俺は分け隔てなく人と会話するようにしているし、それを楽しんでいるのだ。
そうして弁当を食べ終わり、飲み物がカラになっていたので、新しい飲み物を買いに行こうと席を立ち上がる。
「俺、ちょっと飲み物買いに行ってくるよ。また話聞かせてな」
「ぜひぜひ。いつでも歓迎でござるよ」
そうして教室の扉をくぐって、自販機を目指す。
と、そこに肩をチョンチョンと叩かれた。
「ウチもついてくー」
そうやって笑顔で言う黄瀬。
「おう、じゃ行こうぜ」
そうして二人で並んで渡り廊下を歩いていく。
黄瀬と二人だって歩くのは別に珍しいことじゃなく、割と俺の日常風景の一つである。
学校内で男女二人でいると勘違いされそうだが、俺が男女隔てなく接していることは周りにも知られているみたいだし、特に黄瀬や赤羽あたりの女子はクラスも同じでよくつるんでいるので、周りもほとんど気にしていない様子だ。
◆◇
そして中庭にある自動販売機に到着。
俺はお茶、黄瀬はミルクティーを購入し、なんとなくその辺にあったベンチに二人で座った。
今日は晴れていい天気ということもあって、周囲には同じくベンチで駄弁ったり昼飯を食べたりしている学生たちで溢れている。
「いやー、みんなアニメの熱量すごかったねー」
「そうだな、俺はあんな夢中になれるものないからちょっと羨ましいよ」
「ウチもそんな感じー。ウチら部活とかもやってないしねー」
「な。あ、でも黄瀬はファッションとかオシャレとかこだわってるじゃん。それは夢中になってるものの内に入らないのか?」
「んー……オシャレはどっちかって言うとウチにとってはもうやって当たり前、みたいな感じなんだよね」
「そうなのか?正直女子のオシャレはよくわからんが、周りから見ると大変そうって思っちゃうけどな」
「たしかに朝のメイクとか時間はかかるし大変だけどねー。男子が羨ましいって思う時もあるけど、でもやっぱり、やれば可愛くなれるし楽しい方が勝っちゃうかなー」
「そっか。俺そのへん疎いから女子のメイクとか全然気付けんし変わっててもわからんと思うわ」
「あー!それ女子からしたらマイナスポイントだぞ!女の子は自分のオシャレに気付いてほしい生き物なんだから」
「やべ、やっぱり俺ギャル心分かってなかった?」
「それどころか女心を分かってない!」
「女心は俺には難しすぎるぜ……」
「まぁでも、ナナミンは他の男子に比べれば分かってる方な気もするけどねー」
「お、マジ?急な加点キタ」
「さっきのメイクの話にも繋がるけど、ナナミンってお肌のケアとかちゃんとしてるでしょ?いつも肌キレイだし」
「ん?あー、そうだな。最低限だけど化粧水とかはつけてるよ」
「それ女子的にはポイント高いんよ。やっぱ男子にもちょっとくらいはスキンケアしといてほしいんだよね。コスメの話で盛り上がれたりするし」
「おー、まじで?でも俺が使ってるのって未印良品の化粧水だぜ?」
「それで十分だし、未印ってむしろ評判いーんだよー」
「へー、そうなんか。なんかパッケージとか無難だし買いやすいってだけで選んでたわ」
「たしかに男子が選んでもOKなデザインだよね。でもやっぱ大半の男子は未印の化粧水なんかでも面倒臭がってつけたがらないと思うよ」
「んー、俺の場合もう生活のルーティンになってるからなぁ」
「それもさっきの話じゃん。ウチのメイクとかネイルとかが、ナナミンにとってのスキンケアみたいな感覚ってことじゃない?」
「なるほど。そう聞くと理解できるけど……メイクとスキンケアは比べる大変さが違いそうだな」
「まぁメイクしてるとクレンジングとかも必要だからねー。あとはそうだなー……ナナミンってお弁当自分で作ってるんでしょ?」
「そうだな。俺ん家は親が仕事で忙しいから俺が作ってるよ」
「それマジですごいよ!ウチ全然料理できないから本当尊敬しちゃうー」
「料理はもう小学生くらいからやってるからな。やって当たり前というか、そんな凝ったことせずにレシピ通り作るだけだし、それでも美味いもの作れたら楽しいぞ?」
「さっきのウチと同じこと言ってるじゃん。じゃあウチにとってのメイクが、ナナミンにとっての料理ってことになるんかな」
「おお、それはなんかかなり腑に落ちたわ。例えうまいな」
「へへ。てか、それにしても料理できるなんて女子力高すぎー……やっぱナナミンは女心分かってるわ」
「掌クルクルじゃん。じゃあギャル心は?」
「分かってない!」
「ギャル心難解すぎだろ」
俺の発言にケラケラと笑う黄瀬。
そうやって会話していると、俺達の前を横切る男子生徒たちの視線の多くがチラリと黄瀬に向いているのに気付いた。
なるほど、柊斗が以前言っていたが、黄瀬が人気というのは間違いないらしい。
ルックスが良いのはもちろん、特に黄瀬は金髪で見た目も派手だし、そのグラビア的なスタイルの良さと着崩した制服も相まってつい視線が向いてしまうんだろう。
「てかさ、ナナミンって家の手伝いとかもしてるんだよねー。結構忙しいの?」
「うーん、どうだろ。やることは結構多いけど、まぁでも日によるかな」
「そーなんだ。今度のGWとかは予定あるの?」
「あー、GWは柊斗と遊ぶのと去年のクラスの男子たちとカラオケに行く予定だな。あとはやっぱ家の手伝いとか勉強したりとか」
「えー、なんか忙しそう。ちなみに灰ちゃんとはいつ遊びに行くん?」
「そういえばまだ日程は決めてないなぁ。まぁ後で話して決めると思う」
「ふーん、そっか。GW中ウチと離れて寂しいでしょー?」
「ウン、サミシイヨ」
「棒読みやめい!もうっ、本当に寂しくなったらいつでもウチを呼んでくれていいからね?」
「はは、じゃあその時は頼むわ」
そこまで話したところでチャイムが鳴りそうな時間になっていたことに気付き、二人小走りで教室に戻って行った。
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