新学期 編
第03話 新学期
ラブレターを貰った日から約1ヶ月。
春休みも終えて新学期が始まり数日、俺は高校二年生になっていた。
まだまだ長期休暇の余韻でダラッとした意識と体にムチを打ちながら、午前5時に起床。
スポーツウェアに着替えて、少しヒヤッとしつつ朝露が煌めく白んだ空気の中、軽くランニングをこなす。
その後は、父と俺の弁当作り。並行して朝食の準備も進める。
そこにトン、トンと階段を降りる音が聞こえてきた。父が起きてきたようだ。
「光、おはよう」
「おはよう。もうコーヒー淹れてるよ」
「おう、さんきゅ。さすが春休み終わったばっかでもちゃんとしてるな」
「まぁ別にいつも通りだけどね」
「……いやいや、それを続けるのが大変なんだ。ホント自慢の息子だよ。どうだ?新学期始まってみて」
「んー、新しいクラスになったばかりだしまだ分かんないけど、仲いいやつも結構一緒のクラスになったから良かったよ」
「そっか。それは何よりだな」
それから二人で朝食を取り、父は一足先に出社。
それを見送って、俺も登校の準備を始める。
髪を濡らしてドライヤーブローで髪型のベースを作って、ワックスで整える。がっつりセットするよりもほんのり味付け程度のナチュラルスタイルが俺の好み。
あとはムダ毛の処理漏れなどチェックして、玄関へと向かう。
前日に準備しておいたスクールバッグを手に取り、扉をカチャリと閉めて、登校開始。
予報は曇りだったが、その割には陽の光が出ているイイ感じの天気。
最寄りの駅まで歩いて改札を通る。
そしてホームに着きそうになったところで、電車を待っている一人の女子の姿が目に入った。
うちの近所に住んでいる、いわゆる幼馴染の一人だ。
親同士が元々仲が良かったということもあり、赤ちゃんの頃から交流があった。そして俺達は男女であることを思わせないくらい仲が良かった。
昔は普通の泣き虫な女の子という感じだったのだが、いつの頃からかオシャレも知ったようで、ボブカットのヘアスタイルに整えたいかにも清楚系女子と言わんばかりのルックスになっている。
そんな彼女とは中学生になってから思春期にありがちなきっかけもあって、現状は疎遠だ。
高校生になれば別々の道に進んでそんな関係も全て無かったことになるんだろうなんて想像していたのだが、彼女の学力では難しかったはずな上に、俺がいた中学からはほとんど志望者がいなかったくらい通学に時間がかかる常陽高校を選び、見事合格していたらしい。
そんなわけで登下校中などに極稀にこうやって見かけることがあるのだが、疎遠なのは変わらないままなので、お互いわざわざ話しかけることもない。
むしろ一緒になると気まずいので彼女の視界に入らないよう注意しながら車両を移動した。
そんな一幕がありながら、電車が学校の最寄り駅へと到着。
同じ学び舎へと向かう学生の流れに身を任せて歩く。その中に顔見知りがいれば軽く挨拶していく。
そして校舎が見えてきて、校門に差し掛かったところで、挨拶運動をしている生徒会の人たちが見えた。
俺も挨拶を返しながら通り過ぎようとしたところ、スラッと高身長でスタイルのいいポニーテール女子に声を掛けられた。
「やぁ、七海クンじゃないか。おはよう」
「あ、藍沢先輩。おはようございます」
我が校の生徒会長で、実家が剣道の道場ということで培われたであろういつも凛とした姿勢、周囲を巻き込むリーダーシップやカリスマ性など、ザ・生徒会長とも言える存在の先輩。
その手腕も見事なもので、生徒のために様々な学校改革を行ってきた。
そしてキリッとした顔つきのクールビューティーなルックスの良さから男女問わずファンも多いらしく、特に男子から彼女への告白は絶えないらしい。
「この前の案内会は本当にありがとうな。改めて助かったよ」
「いえいえ、とんでもないです。あれくらい何でもないので」
「はは、そう謙遜するな。君の能力は私も買ってるし、ぜひ今からでも生徒会に来てほしいくらいだ」
「いやー、俺には荷が重いですよー」
俺は一年生のときにもクラス委員長を務めていたのだが、藍沢先輩とはその委員会活動を通じてお互いもともと面識はあった。
その活動での仕事ぶりを彼女に評価されたようで、最近はこんな感じで顔を合わせるたびに話すようになったのだ。
「そういえば君は今年もクラス委員長らしいね?」
「そうですね、なんか成り行きでなっちゃいましたよ」
「それなら今年も一緒に仕事することがありそうだな。またよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
それから二言三言ほど藍沢先輩と会話してその場を後にする。
そして昇降口へと向かい、玄関に入ろうとしたところで。
「あー!七海先輩ー!」
元気な声で俺を呼ばれ、その方向を向くと、編み込みのショートカットというヘアスタイルが特徴の、小柄な女子がいた。
先日の委員会活動の一貫として参加していた新入生向け入学前案内会で同じグループになり、ちょっとした縁もあって話をしていた後輩だ。
案内会では仲良く話していたとはいえ、交流としてはまだそのくらいなのだが、どうもこうやってわざわざ話しかけられるくらいには懐かれたらしい。
「おぉ、橙山か。おはよう、案内会ぶりだな」
「おはようございます!先輩を見つけて思わず走ってきちゃいました!」
「はは、そっか。元気でいいな。そういえば今日入学式か」
「はい、これでボクも正真正銘立派な常陽生です!だからボクもこの前みたいな失態はもうしませんよー」
「ああ、そうだったな。まぁわからないことあったら、また聞いてくれていいから」
「わかりました!頼りにしてます!七海先輩、今後ともよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくな。改めて入学おめでとう」
「ありがとうございます!あ、じゃあボクはそろそろ時間なんでこれで!」
「おう、またな」
ペコリと一礼をして、タタッと駆けていく彼女。
新入生のフレッシュさに朝から元気をもらった気分だ。
それから俺は下駄箱から自分の内履きを取り出して、階段を登りながら自分のクラスを目指す。
教室に入り、クラスメイト達と挨拶を交わしながら、自分の席につく。
俺の周りの席は誰も登校していなかったので、なんとなくスマホを取り出しながらダラダラと過ごす。
と、そこに頭上から声をかけられた。
「——わー、相変わらず画面バキバキのスマホ使ってるんやねー」
その声に顔を上げると、お団子金髪ヘアのギャルが立っていた。
去年に引き続き今年も同じクラスになり、何かと一緒にいることが多い腐れ縁的な女子。
髪色や身につけているアクセ、制服の着崩し方などから一見絡みにくそうに見えるが、実際は誰にでも分け隔てなく接してくれるコミュ強型のギャル。
元の素材の良さもあるだろうが、メイクもバチバチに決めるようなタイプではなく、万人受けするラインを見極めていると思う。
俺の高校生活において、特に仲がいいと言える女友達の一人だ。
「おう黄瀬、おはよう。このままでも使えるから別にいいの」
「はいおはよ。いやースマホなんて現代人の必需品なんだし、見栄えくらい気使ってもいーんじゃない?」
「そうだけどさ。でも修理代って結構かかるじゃん?高校生にはそんな大金簡単に使えないって。それに俺は見た目よりも実用性重視だしな」
「実用性ってなんか違くない?まぁナナミンがそれでイイって言うならウチも何も言わないけどさー。でも、いつも変なとこにスマホ入れてるから落とすんよ」
「癖なのか、つい胸ポケットに入れちゃうんだよなー。気を付けてるんだけど、ここが一番落ち着くというか」
「えー、もっと気を付けないと、今度は画面だけじゃ済まないかもよ。スミレもそう思うよね?」
「うん、すーも胸ポケットにスマホ入れとくのはやめたほうがいーと思うな〜」
「あれ、白河も一緒だったのか。おはよう」
黄瀬の後ろからヒョッコリと顔を出した、どこか間延びした口調の主にも挨拶を告げる。
ピンク系のインナーカラーが入った髪をツインテールにまとめて、制服にアクセやデコレーションを加えており、我が校の緩い校則ギリギリを攻めていく個性派女子。
本人いわく地雷系ファッションが好きとのことで、メイクや服装のみならず一人称が「すー」だったり性格的にも我が道を行くタイプ。
去年同じクラスになって話すようになった仲だが、二年生ではクラスが別になった。
「おはよ〜。ななぴー、クラス分かれちゃったから久しぶりだね〜」
「たしかに、新学期始まってから顔合わせるのはこれが初めてか。白河がこっちのクラスいるの珍しいな。黄瀬と並んでるこのビジュアル派手な光景がもう懐かしいよ」
「あはは〜ありがと〜。ただ単にひまっちに会いたくなったから来ただけなんだ〜」
「スミレはウチがかまってあげないとダメなんよねー」
「いや、どういう関係?」
「すーがひまっちに庇護してもらってるんだよ〜」
「そうそう」
「そうなのか」
「スミレも一緒のクラスになれれば良かったのにねー」
「だよね〜。せっかくみんながいる理系選んだのに〜。理科とかキライなんだけどな〜」
「まぁ文理選択なんてぶっちゃけそのくらいで考えるヤツも多いよな。白河は今のクラスに話せるようなヤツいないのか?」
「ん〜、今のとこいないかな〜。でも友達なんて、すーのことちゃんと分かってくれる人が数人いればいいから、すーはひまっちがいればいいんよ〜」
「おほー!可愛いこと言ってくれるね!スミレはホントにギャル心分かってる!」
「ギャル心って何?」
「え、そんなん男ならわかるっしょ?」
「いや、わからんが」
「わかれ!」
「こりゃ手厳しい……」
「あはは〜、やっぱ去年のクラスのメンバーいると楽しいし、やっぱ寂しいよ〜」
「ま、去年の1-6が楽しかったのは俺も同意だな」
「——なになに?今のうちのクラスは楽しくないってー?」
三人で話していたところに突然横から声をかけられ、そちらに顔を向けると、そこには明るく染めた髪にウェーブパーマをかけたヘアスタイルの女子。
彼女も去年から俺と同じ1-6にいて、俺と共にクラス委員長を務めていた。
しっかり者だしクラス委員長ではあるものの、ルックスとしては陽キャ寄りで、いわゆるカースト上位という立ち位置にいそうな女子。だけど部活は手芸部という意外な一面も持っている。
今年も一緒のクラスになり、加えて再びお互い今のクラスでも委員長になったこともあって、赤羽も特に仲が良いと思ってる女友達の一人だ。
「これはこれはクラス委員長様。別にそんな話はしてないって。まだ二年生も始まったばかりだし、やっぱ去年のクラスのこと考えちゃうノスタルジック的なアレだよ」
「アンタも委員長でしょ。でもそうね、アタシも去年のクラス楽しかったってのは同意だわ。アタシの仲良かったグループはみんな他のクラスに散り散りになっちゃったし、菫が寂しがるのもわかるわね」
「かえたそも分かってくれるんだ〜。嬉しい〜」
「まぁクラスが離れてもこうやって話せるしな。白河もいつでも遊びに来てくれたらいいんじゃないか」
「そうだね、ありがと〜。でもななぴーって薄情だから、すーのことなんてすぐ忘れちゃいそう〜」
「そんなわけあるか。お前みたいなインパクト強いやつ忘れるわけないだろ」
「あはは〜冗談だよ〜。じゃひまっち、教科書貸して?」
「え?ウチに会いに来てくれただけじゃないの?」
「そのついでに教科書借りに来たんだよ〜」
「なぁ、これギャル心分かってんの?」
「ぐぬぬ……スミレ〜」
「アハハ、派手ビジュ組がいると色々賑やかでいいわね」
「だな」
「えへへ、じゃあすーはそろそろ教室戻るね〜」
「おう、またな」
「またねスミレー」
「予鈴鳴りそうだしアタシも席戻ろっと」
「ういー」
そう言いながら黄瀬、白河、赤羽の三人はそれぞれ自分の場所に戻って行く。
そして俺はまたスマホに視線を戻そうとしたところ。
「やっぱお前の周りって女子だらけじゃん」
隣の席から、いつの間にか登校していた灰原柊斗に声を掛けられた。
毛束感強めにセットした短髪スタイルに、少し色黒なスポーツ系男子。
コイツとも去年から同じクラスで、妙にウマが合うってことで男友達の中でも特によくつるんでいる。
バスケ部に所属しており、ノリが軽くて勘違いされがちだが、信頼の置ける良い友人だ。
ちなみに、一年生の頃から付き合っている彼女がいるリア充である。
「ん?たまたま一緒になって話してただけだよ」
「いーや!たまたまであんな状況にはならない!それなら他の男子たちもあんなハイレベルな女子たちともっと話せてるはずだろ!」
「だから彼女持ちが言うセリフとしてはおかしいんだって。どういう立場でお前は言ってるんだよ」
「オレは男子たちの声を代表して言ってるだけだ」
「なんでお前が代表してるんだ?」
「やはり学校一の美少女を攻略するのはお前かもしれないな」
「スルーすんな。てか、その学校一の美少女って前も言ってたけどさ、俺には馴染みがないんだが誰のことなんだ?」
「えぇー、今更?この話って結構有名だぜ?うちの学年の文系にいる青島さんだよ」
「あー、あの人か」
生徒会役員の一人で、俺は同じクラスになったこともなくほとんど絡みはないのだが、委員会の仕事で事務的な会話くらいならしたことがある。
キューティクル輝くロングストレートヘア、お人形さんのような綺麗に整った顔立ちのルックスに、良いとこの出とかでお嬢様的な佇まいも感じさせる、超王道美少女といった女子。
成績も超優秀で、学年一位には常に彼女の名前がある。
学校一の美少女、なんて言われてもたしかに違和感はない、が。
「……そんな大層なアダ名つけられてまぁ。青島はさぞかしモテまくってるんだろうな」
「いや、青島さんはちょっと高嶺の花過ぎて、近寄りがたくて告白すらできない感じだな。もうちょっと親しみやすい感じの女子に人気が分散されてるみたいだぜ」
「へぇ、そんなもんなのか」
「それで今人気どころになってるのが、うちの学年だと黄瀬さんとか赤羽さんとか、文系にいる緑川さんなんだよ。あとは一部で白河さんがカルト的な人気を誇ってる感じだな。で、上の学年はご存知、藍沢会長一強」
「なんか知ってる顔ぶればかりだな」
「だからお前が置かれてる状況がおかしいんだって!だからこそお前が青島さんを攻略するんじゃないかとオレは注目してるわけだ」
「いや、そんなつもり全く無いが。なんでそんな話になるんだ……」
「近寄りがたくても、青島さんを誰が攻略するのかってのはうちの学校の男子全員が注目してるからな」
「みんなそういう話好きだなぁー。他人の恋愛沙汰とかどうでもよくないか?」
「バカ野郎、高校生なんて恋愛沙汰にしか興味ないだろ!お前が興味なさすぎるんだよ」
「別に普通だろ。むしろお前はちゃんと彼女さん大事にしとけよ」
「それはもちろんだ。朝も一緒に登校してきたしな。でも恋バナは彼女持ちでも楽しいし、むしろ彼女ともこんな話いっぱいしてるぞ」
「ふーん、俺は彼女いたことないからわからんけど、そんな感じなんだな」
「それで女子側ではお前の名前が結構挙がってるみたいなんだよ。癪なことに」
「それはそれは、光栄なことで」
「くぅぅ!気の無い返事でムカつくぜ……」
そうやって柊斗がブツブツと呟いていると、チャイムが鳴り、担任教師が教室へと入ってきた。
こうして俺の高校二年生の一日は始まる。
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