Episode11 成長と次の目標
「はあぁぁぁぁぁ!!」
掛け声と共に紫藤さんが剣を振り下ろすと、直前に武器を弾かれたことで大きく体制を崩していたゴブリンソルジャー(Lv.36)の胴体はあっさりと斜めに切り捨てられ、そのまま地面へと崩れ落ちる。
『経験値を74獲得しました。レベルが18に上がりました』
後方から紫藤さんの戦いを見守っていたボクの脳裏にそのアナウンスが響いたのを確認すると、ボクは背後から彼女に「無事にレベルが上がりました」と状況を報告する。
「ふう、やっぱり必要な経験値が1,000を超えると1レベル上げるのもなかなか時間がかかるみたいね」
武器を待機状態に戻しながら紫藤さんはそう呟くと、【アイテムボックス】から収納していたドリンクを取り出して手早く水分補給を済ませ、若干朱が混じり始めた空を確認した後にボクへ視線を向けると「それじゃあ予定通り今日はここまでにしとこうか」と告げる。
現在、ボク達がこの世界に転移してきて早くも4日目の終わりを迎えようとしていた。
そして、ボクが先ほど18レベルに、今日の午前中に紫藤さんが16レベルに上がったことでボク達のパーティーは大幅に戦力を増強していた。
【ステータス】
・芹川優璃 Lv.18 EXP:7,512(次のレベルまで:1,218)
・SP :166/256
・MP :6,968/10,697
・攻撃力:3,988(+388)
・防御力:4,138(+1,650)
・魔攻力:4,885(+520)
・魔防力:4,586(+1,870)
・素早さ:4,287(+2,222)
【装備】
・殲滅の大鎌『タナトス』(覚醒)(攻撃力:+388、魔攻力:+520、素早さ:+342)
・白波高等学校の制服★3(防御力:+1,650、魔防力:+1,870)
・ローファー★3(素早さ:+1,880)
・魔集石のネックレス
・魔集石の指輪
【ステータス】
・紫藤亞梨子 Lv.16 EXP:5,532(次のレベルまで:788)
・SP :120/120
・MP :841/2,220
・攻撃力:1,452(+1,984)
・防御力:1,416(+1,838)
・魔攻力:748
・魔防力:1,256(+2,158)
・素早さ:1,490(+3,530)
【装備】
・戦女神の剣『アテネ』(攻撃力:+334、防御力:+188、魔防力:+288)
・白波高等学校の制服★3(防御力:+1,650、魔防力:+1,870)
・ローファー★3(素早さ:+1,880)
・風神のネックレス(素早さ:+1,650)
・雷神の腕輪(攻撃力:+1,650)
(正直、紫藤さんは自身のステータスより装備の方が強くなっとるけど……これ以上の装備を作ろうとすると1回で最低15,000は必要だけん、装備を更新する前には追い越すだろうし良いとかな?)
レベルアップにより上昇した自身のステータスと紫藤さんのステータスを見比べながら、ボクはこの3日間の事を軽く思い返してみる。
まず最初の1日、つまり転移2日目の最初にボクがやったのは一晩寝て全快していた9,000近いMP全てを消費し、MP回復速度を上げるアクセサリーの中で今作れる最上級の物、『魔集石のネックレス』を作成することだった。
なぜ最初にそのアクセサリーを作成したのかというと、前の晩のうちに今後の方針を話し合ったボク達はしばらく経験値効率は落ちるものの比較的安全な紫藤さんがこの世界で最初に訪れた場所付近に移動し、戦闘の全てを紫藤さんが引き受けることでボクは一切MPを消費せずに済むが、その代わりにMPが回復し次第作り出せる最上級の装備を生成することで一気に戦力増強を図る方向で決定したため、この作戦で最も重要なボクのMP回復速度を上げる必要があったのだ。
そのため午前中いっぱい回復に専念したボクのMPは昼前には全快し、そこでもう一つのMP回復速度上昇効果を持ったアクセサリー、『魔集石の指輪』を創り出すことになる。
これによってボクのMP回復速度はかなり上がることとなったのだが、残念ながらアクセサリーを装備して効果が発揮するのは2つまでと制限されているようなのでこれ以上の速度上昇は不可能(一応そう言ったスキルも存在するようだが、習得に最低でも300以上のSPが必要なので当てにしない方が良いだろう)と判断し、そこからボクらはより経験値効率の良い狩場に移動できるよう紫藤さんの装備を先にそろえる方針を取ることとなった。
そのため、その日は日が暮れる直前まで倒せるだけ魔物を倒して(どうやら魔物は時間が経つとどこからか補充されているらしく、突然復活する)経験値を稼ぎ、魔物が出現しないポイント(紫藤さんの出発地点にあった遺跡)に回復したMPで小屋を作成し(電気も水道もなぜか使えるが、どのような仕組みになっているのかは不明だった)、今後もしばらくはそこを拠点に活動することが決定した。
そして次の日、つまり昨日の朝は紫藤さんの攻撃力を上げることである程度の魔物を一撃で倒せるようにするため、『雷神の腕輪』というアクセサリーを作成する所から始まった。
その後、ひたすら戦闘を紫藤さんに任せてボクはMPの回復に専念し、その日は紫藤さんのレベルが1上がったところで経験値稼ぎは終わりになってしまったものの紫藤さんの装備を現状で揃えられる最高の物に更新することができた。(基本的に最も低い魔攻力はボクが補えば済む話なので放置する方針だ。)
それから今朝はボクの防具を初期装備から更新するためにMPを使い、狩場も一気に30レベル台の魔物が出現する地点に変えたことで多少経験値効率も良くなり(ボクと紫藤さんで経験値が2分されるようで、そこまで劇的に上りはしないのだが)、今日一日だけで前2日の合計を上回るほどの経験値を稼ぐことができたのだ。
「それじゃあこれで装備も整ったし、明日はとうとう一昨日見つけた【森のダンジョン】を探索してみましょうか」
紫藤さんの【ポータル】で拠点となる小屋に戻ったところでそう告げられ、特に異論が無かったボクは無言で肯きを返した。
一昨日の夕方、そろそろレベル上げを切り上げようかと周囲を探っているときに明らかに他とは雰囲気の違う洞窟を見つけ、その奥に人工物と思われる石の扉を発見したのだが扉を開いて奥に進もうとした直後に突然『【森のダンジョン】に挑戦しますか?(推奨レベル50)』とアナウンスが聞こえたので、ボク達はいったんその場を離れる選択を取ることとなった。
正直、推奨レベルが今のボク達からすると3倍程度と高過ぎるので普通に考えればそのまま無視するのが一番なのだろうが、この数日で普通に30レベル台の魔物を倒していることを考えると(というかボクは初日から40レベル台を余裕で倒している)、案外行けるのではないかと試してみることになったのだ。
それに、ボクの【能力看破】で魔物のレベルだけでなくステータスも確認できるのだが、30レベル台の魔物は低いステータスで200くらい、高くても1,000を超えないくらいで時々装備やスキルを使ってそのステータスを1,000以上まで上げているのがいるくらいなので、推奨レベルが50でも敵のステータスが装備込みで3,000を超えることは無いのではないかと判断したのだ。
あと、MPを一万消費すればダンジョンから瞬時に脱出できる『導きの翼』(消費アイテム)を作成できるため、もしも想像以上に魔物が強くて手に負えない場合でもどうとでもなると判断し、装備が充実したこのタイミングで挑んでみることにしたのだ。
「とりあえず、この調子ならあと2、3時間もすれば芹川さんのMPが1万まで回復するでしょうし、寝る前までに1つくらいは『狂化薬』を作る余裕があるかな?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「あの薬はデメリットもでかいけど、いざという時の切り札としては申し分ないから作れる時にできるだけ作ってストックしときたいんだよね。これさえあれば後衛の芹川さんでも普段の私以上の力が出せるみたいだし、明日のダンジョン探索で使わなくても今後も使う機会が出てくるかもだし」
紫藤さんのその言葉に、ボクは内心『この薬が無くてもステータス的にボクが前衛で戦った方が強いんだけど』とツッコミを入れるが、正直この数日でどうやら紫藤さんが前衛を買って出てくれた理由がボクのステータスがここまで高いと思っていないからだと薄々感づいていたので、できるだけサボれるならそれに越したことは無いとあえて反論の言葉は口にしない。
というか、明らかにボクのステータスは周囲の魔物から判断しても『バグってるのでは?』と疑いたくなるほど高いので、このステータスがバレると他のバレたくない余計な情報(【勇者】と【魔王】を同時に習得し、七元徳と七大罪のどちらもコンプしている現状)まで露呈する危険性があるので余程の事でもない限り基本的には弱いふりをしていた方が都合が良いだろう。
因みに、紫藤さんが口にした『狂化薬』とは『あなたが使っている、大幅にステータスを増幅するアイテムを私にも分けて欲しいの』と言われたので、そんなアイテムなど使てはいないのだが作れる範囲で一番効果が強力(MPを3,000も消費するが)な『3分間ステータスを2倍にするが、効果終了後3分間ステータスが半分になる』効果を持ったアイテムのことである。
「それじゃあ今日の料理当番は私がするね。材料は昨日までに作った素材の残りが十分にあるから、新たな食材を作るためにMPを使う必要はないと思うけど、もし足りない食材があればお願いするかも」
「分かりました。その時は遠慮なく言ってください」
それとこの数日で判明したことなのだが、調理された食料をそのまま創り出すより必要な食材を創り出して自分たちで料理する方が半分程度のMP消費で済むことが判明していた。
そして幸いなことに一人暮らしのボクは勿論、意外にも紫藤さんはかなり料理の腕前が高かったのでこの3日間は1食ごとに交代で料理を作っているのだ。
こうして比較的穏やかな異世界での生活が過ぎていき、ボク達はこの世界で初めてのダンジョン攻略に挑むこととなるのだった。
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