Episode12 異世界の中の異世界
次の日の朝、朝食を済ませた私と芹川さんはさっそく【ポータル】を使用して一昨日発見していた【森のダンジョン】まで移動する。
正直、移動だけのために【ポータル】を使用するのは勿体ないような気もするが、どうせダンジョンから抜け出すための専用アイテムがあると言うことは【ポータル】での脱出は不可能だと考えておいた方が無難だし、10分待てば再使用できるようになるのだからわざわざ3時間ほどかけて拠点から移動するのも時間が無駄だと判断したのだ。
「さて、それじゃあ予定通り私が先頭で行くけど……罠とかの探知は任せたよ」
ダンジョン入り口に設置されている巨大な石の扉を前にして、私は振り返りながら背後の芹川さんにそう言葉を掛ける。
するとこのダンジョンを発見した日に作成していたメガネ型のアクセサリー、『盗賊の目』を装備した芹川さんは無言で頷きを返した。
その装備の効果は単純で、装備している者の視界に罠の存在を教えてくれると言った物らしい(私の【アイテムボックス】に入れて調べてみた)のだが、それがどの程度の精度で教えてくれるのか、更には万が一罠を超えて進まなければならない状況で解除方法なども分かるのかは不明だ。
だが、私は勿論芹川さんもこういう場面で役立ちそうなスキルは持っていないと言うことで、せめてもの保険としてこの装備を後衛の芹川さんが常に身に付ける方針を取ることにしたのだ。
(たぶん大丈夫だと思うけど、いきなり即死トラップで全滅とかネットで有名な
軽く今後の方針に意識を向けた後、覚悟を決めた私はそのまま扉の方へと一歩進み出る。
すると前回と同じく頭の中に『【森のダンジョン】に挑戦しますか?(推奨レベル50)』という声が響いたので、前回と違い今回は悩むこともせず「うん」と返事を返す。
直後、ゴゴゴゴと重量感を感じさせる轟音と共に扉が開き、神秘的な紫色の光りに覆われているために扉の向こうにはどのような景色が広がっているのか全く確認することができなかった。
「…………この扉自体には罠は無いみたい、です。……それにこれ、ヘルプの【ダンジョン】項目によるとダンジョンの入り口である転移ゲートみたいですから、入れば向こう側の対応するゲートに出られるし、逆に向こうから入るとこっちに戻って来れる仕組みで、らしいです」
ダンジョンの入り口に到達した影響か、私の脳裏にも同じ情報が浮かんでいるのを確認したことでこのゲートの安全性を確認し、私はゴクリと唾を飲み込むと「じゃあ、行くね」と芹川さんに声を掛けてゲートの中へと足を踏み入れる。
すると、一瞬ふわりと浮遊感のようなものを感じたかと思えば、いつの間にか私はゲートを背にしばらく進んだ地点まで移動しており、私から1秒ほど遅れて私のすぐ後ろに芹川さんが姿を現すのを確認する。
「……ここが、ダンジョンなんですね」
芹川さんの言葉を聞きながら、私は眼前に広がる薄暗い洞窟へと視線を向ける。
「ところどころに明かりが設置してあるから、全く見えないってことは無いけど……この松明に照らされた仄かな明かりだけだと奇襲とか心配ね」
「懐中電灯でも、作りましょうか?」
「うーん……懐中電灯だと片手が塞がっちゃうし、ヘッドライトとか追尾する光源とか創り出せない?」
「…………ヘッドライトとか暗視ゴーグルはできそうです、けど……自動追尾機能を持った光源だと今のMPじゃ厳しい、ですね」
「そっか……因みに、一番低いMP消費で作れるやつでどれくらい?」
「1,200くらい、ですね」
「1,200かぁ……」
しばらく私は考えた後、それだけのMPを消費するのなら自身のバフ程度にしかMPを消費しない私が魔法で光源を作った方が良さそうだと判断し、芹川さんに「だったら、私が魔法で光源を作るからひとまずはまだMPを温存しておいて。ただ、もし光源の維持に思ったよりもMPを消費するようだったらお願いするね」と伝えると、芹川さんは特に表情を変えることなく無表情のままこくりと小さく頷きを返した。
「ということで……えいっ!」
自分のイメージを魔力に乗せ、直径十センチほどの光球を出現させると今迄薄暗くて見え辛かった洞窟が明々と照らし出され、それと同時に私のMPが1,000近く削られる。
だが、一度光球を生み出した後に更なる魔力消費はないようで、試しに少しだけ前に進んでみるとそれに合わせるように光球も一定の間隔を保ったまま付いて来てくれたのでどうやら目論見が成功したらしいことを確認する。
「これで良さそうね。でも、どうやらこの光球は私の動きに連動して動くみたいだから、芹川さんもあまり私と離れすぎて一時的でも視界を失って隙を付かれないように気を付けてね」
そう忠告の言葉を発すると、毎度の如く芹川さんは無言でこくりと頷きを返す。
正直、現時点でこの光源はかなり遠いところまで照らし出してくれているので余程遠くまで離れない限り大丈夫だとは思うが、入り口部分が狭いからと言って今後もこの広さが続くとは限らないし、広い場所で戦闘に集中していて芹川さんの視界まで気が回らない可能性も十分あり得るので用心に越したことは無いだろう。
それに、現時点でMP消費が無いと言うことはこの光源の発動時間は最初に消費したMP相当の魔力が尽きるまでだと言うことなので、魔力を消費しながら少しずつ照らす範囲や光量が減少していく可能性や、最悪の場合前触れもなく突然消えてしまう危険性も考慮する必要があるだろう。
「それじゃあゆっくり慎重に――」
「ちょっと待ってください! そこに、何かいます」
いきなり出だしから躓きつつも、私は一歩踏み出した状態で武器を召還すると周囲に注意を向ける。
だが、私の視界にはそれらしい姿を捉えることができず、このような空間で芹川さんが多少神経質になり過ぎているのかと疑う。
「……どうやら、トラップ型の魔物、みたいです」
芹川さんはそう告げなら、足元に落ちていた小石を拾うと近くにあった水溜りに向けてその石を投げこむ。
直後、まるで獲物を待ち構えていた狩人の如く水溜りが膨れ上がり、そのまま自身に向かって飛来した小石を飲み込んでしまった。
「トラップスライムLv.45、だそうです。ステータスは……攻撃力が2,500ちょっとと高いですが、魔攻力も魔防力も0で素早さも1,800程度なので余裕で倒せる、と思います。ただ、【物理攻撃無効】のスキルがあるので必ず攻撃時には付与魔法を使ってください。あと、説明文にいろいろと卑猥なことも書いてあるので、絶対捕まらないでください」
淡々とした口調で最後に余計な一言を付け加えられたことで若干動揺しそうになったが、軽く息を吐き出して冷静さを取り戻した私はこのような狭い空間で剣を振り回すわけにも行かないと冷静に状況を分析し、剣に光の魔力を纏わせると突きを主体に戦う構えを取る。
そして擬態が見破られたことで力尽くで私達を捕えようと襲い掛かるスライムの攻撃を難無く避け、半透明の濁った体内、その中に見えていた赤い核のような物を剣で刺し貫くと数度ブルブルと体を揺らした後、そのまま弾けて普通の水のように地面へ吸収されて消えていった。
『経験値を356獲得しました』
そのアナウンスを聞き、一応他にも敵がいないか周囲を警戒して問題ないと確信したところで私は武器を下ろし、背後の芹川さんへ視線を向けると口を開いた。
「ねえ、このダンジョン…女2人で攻略するには不向きなダンジョンだったりしないよね?」
「いきなり入り口でアレ、ですからね。……今後もそう言った方面の敵やトラップはあるかも知れませんが、今の戦闘を見る限り大丈夫だと、思います。……たぶん」
表情が崩れることは無かったが歯切れの悪い芹川さんの言葉に若干不安になりつつも、高レベル帯でそこまで敵のステータスが高くないのでレベル上げに最適であることは間違いないため、私は『たまたま入り口付近にエロ寄りの魔物が配置されてただけに決まっている』と自身に言い聞かせながら、奥へと続く洞窟の先に視線を向けるのだった。
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